本書は辛淑玉さんと富山妙子さんの対談の文書化です.表紙に「待望の初顔合わせ対談」とありますので,きっとお二人は魅力ある話し手なのでしょう.その語り口は,もう黙っていられないとばかりに,戦前の植民地やら戦争を,更には原発を取り上げます.こんなにはっきりとものをいう男はそうはいません.昨今,男どもは,とくに政治の世界では大体が意志薄弱で,強者におもねったり,その場限りの二枚舌を使ったりなどして,全くどうしようもない.このお二人のようなしっかり公言する政治家は現れないのでしょうか.政治は行動力のある女(といっても今の女の国会議員は男みたいなもので,代わり映えがしません)に任せた方がよいのではないですか.以前,イギリスにはサッチャー首相がいました.今のドイツはメルケルさんが首相です.ご両人,存在感たっぷりの女性です.
前置きが長くなりました.辛淑玉さんと富山妙子さんの発言のサンプルを以下に紹介します.先ず先ず辛淑玉さんです.
戦争が終わっていない.終わらせてないんだけれども,終わったかのようにするという暗黙の了解を,みんなでしたんだと思う.だから戦争の後で精算できなかった感情が,憎しみが,いつでも出てくるんだろうと,暗澹たる気持ちになる.一部の人たちに負けるとわかっていながら,延々と続けた戦争.しかも「勝つてる」と盛んに言っていた矢先に,原爆が落ちていく.原爆と原発を考えると,まるで壊れたからくり人形がカラコロカラコロ回っているようになる.戦争の頃と変わらないシステム,社会があるんですよ.
戦後,日本は民主主義になった筈.でも,辛淑玉さんの目には変わっていないと映る.その目は原爆と原発は壊れたからくり人形のように見え,今もカラコロカラコロ回っている.原爆と原発は一枚の紙の表と裏,風向き次第でヒラヒラ変わります.自民党は核武装まで視野に入れている.原爆を持ちたいために原発をやり,プルトニウムを貯めている.そんな時勢ですね,今は.辛淑玉さんは在日三世,旧植民地の末裔です.彼女が歩んだ道は偏見と差別で歪んでいました.次いで富山妙子さんの発言を一部省略して紹介します.
敗戦の少し後,東中野から国会議事堂が見えた.一面の焼け野原にところどころビルがあるだけで,一面の瓦礫.国家って壊れるものなんだな,という感慨があった.戦争難民でぼろぼろだったけど,でも「これから再出発」とも思えた.壊れたのは自分を抑えつけていたファシズムであり,軍国主義だった.嫌なものがみんな崩壊したという感じがしたので,挫折感はなかったの.しかし,今度は二度目の敗北を迎えた思いです.こんな狭い日本列島に54基という原発が動いていたとは! アメリカの一州ほどの面積の日本がすることか! しかもヒロシマ,ナガサキの被爆体験をもつ日本が ----- .(中略)今回の震災の死者・行方不明者が二万人弱.それに比べて広島の原爆一発がどれだけの人を殺したか,と.それから太平洋戦争だけで,アジアで二千万人,日本人三百十万.あれほどの大地震よりも,戦争の方が被害はすさまじいのだと改めて思った.
敗戦時,廃墟と化した東京をみて希望を抱いた日本人は少なかった,と私は思います.日本人は皆挫折していました.神の国日本は不敗と信じていた.負けることはないと思っていた.早い話,軍国政府に洗脳されていました.今この国の人間も洗脳されています.経済大国日本を信じ,フクシマの後の日本は復活すると信じています.でも,それはどうでしょうか.ヒロシマ,ナガサキを見,更にフクシマと続いてこの国が変わらないなら,今後どんな災禍が日本を襲っても変わらないでしょう.私は,経済はすでに極点に達していると思っています.これから脱成長です.成長のない社会を如何に創出していくか,これが課題だし,希望もそこから生まれる,と思っています.生き方の根幹を変えず,更なる成長を夢想しているような現体制は時代錯誤というべきです.
私は知らなかったことですが,富山妙子さんは画家です.御年97歳になるというご高齢の画家は軍国日本を反戦の願いを込めて描き,今なおフクシマを画材にされています.それらの絵の一部がカラー8頁にわたって掲載されました.芸は力,人を動かす.作文も芸なら,作画も芸です.書いてよし.描いてよし.富山妙子さんは凄いお人だと,本書で知りました.
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〈男文化〉よ、さらば――植民地、戦争、原発を語る (岩波ブックレット) 単行本(ソフトカバー) – 2013/9/5
「震災を機に社会のあり方が見直されるだろうと思ったのに、こだわっている人はおかしいという風になってきた」「なら私たちはおかしい人だね(笑)」。旧日本植民地に育った91歳・反骨の画家と、旧植民地の末裔である在日三世が、歩んだ道、不良品たる古今の〈男文化〉の罪悪、3・11以降の社会の空気について縦横に語り合う。それでも希望を見つけるために。[カラー8頁]
- 本の長さ64ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2013/9/5
- 寸法15 x 0.4 x 21 cm
- ISBN-104002708829
- ISBN-13978-4002708829
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2013/9/5)
- 発売日 : 2013/9/5
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 64ページ
- ISBN-10 : 4002708829
- ISBN-13 : 978-4002708829
- 寸法 : 15 x 0.4 x 21 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 779,291位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 5,972位社会一般関連書籍
- - 6,513位その他の思想・社会の本
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
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2013年9月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2018年10月23日に日本でレビュー済み
図書館本
世の男どもは読んだ方が良い。
読むのが嫌なら前書きだけでも読んで欲しい。
前書きをどの様に解釈するかで男の価値が分かるように思う。
辛さん(1959-)と富山さん(1921-)の対談本
辛さんの本は「差別と日本人」(野中広務氏との共著)で読んで以来です。
良く養老さんが書くことだが、身体性を失い都市化し脳化(ああすればこうなると頭だけで考えること)した現在社会。そして、子供と女性は自然であると。
動物界は男と女がいて社会は成立するのだけれど、あまりに男の馬鹿さが突出しているのが人類ではないだろうか?
争い、支配、権力、暴力、そして暴力装置としての軍隊や核兵器、さらには原発や巨大公共工事。
リニア新幹線構想などもまさに男だけの物語りだろう。
技術は昔と比して進歩しているのだろう、しかし、男の中身は進化あるいは進歩しているであろうか?
平和、幸福、自然、そんな文脈の中に男が登場するのだろうか?
お二人の対談を読んで、男として反省せざるを得ないと思うのである。
ちなみに、フェミニストでは無いし、おひとり様先生などは大嫌いである。
目次
はじめに 辛淑玉
I 戦争と植民地の時代を生きて
一九二〇年代の神戸に生まれて/戦争への道,満州事変/アジアとの出会い/ハルビン,歴史が通った駅/戦争と美術学生/抵抗の芸術/植民地に刻まれて――悲しみの「恨(ハン)」
II 3・11,そして二つの選挙へ
現実を超えた現実,3月11日/国境を越えた,出会いの連鎖/アートと「運動」/二〇一三年の社会の「空気」/社会の病理が深まっている/きつねの幻術に目を凝らす
おわりに――植民地と女の目 富山妙子
表紙,33~40頁はすべて富山妙子作品
世の男どもは読んだ方が良い。
読むのが嫌なら前書きだけでも読んで欲しい。
前書きをどの様に解釈するかで男の価値が分かるように思う。
辛さん(1959-)と富山さん(1921-)の対談本
辛さんの本は「差別と日本人」(野中広務氏との共著)で読んで以来です。
良く養老さんが書くことだが、身体性を失い都市化し脳化(ああすればこうなると頭だけで考えること)した現在社会。そして、子供と女性は自然であると。
動物界は男と女がいて社会は成立するのだけれど、あまりに男の馬鹿さが突出しているのが人類ではないだろうか?
争い、支配、権力、暴力、そして暴力装置としての軍隊や核兵器、さらには原発や巨大公共工事。
リニア新幹線構想などもまさに男だけの物語りだろう。
技術は昔と比して進歩しているのだろう、しかし、男の中身は進化あるいは進歩しているであろうか?
平和、幸福、自然、そんな文脈の中に男が登場するのだろうか?
お二人の対談を読んで、男として反省せざるを得ないと思うのである。
ちなみに、フェミニストでは無いし、おひとり様先生などは大嫌いである。
目次
はじめに 辛淑玉
I 戦争と植民地の時代を生きて
一九二〇年代の神戸に生まれて/戦争への道,満州事変/アジアとの出会い/ハルビン,歴史が通った駅/戦争と美術学生/抵抗の芸術/植民地に刻まれて――悲しみの「恨(ハン)」
II 3・11,そして二つの選挙へ
現実を超えた現実,3月11日/国境を越えた,出会いの連鎖/アートと「運動」/二〇一三年の社会の「空気」/社会の病理が深まっている/きつねの幻術に目を凝らす
おわりに――植民地と女の目 富山妙子
表紙,33~40頁はすべて富山妙子作品
2016年12月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
植民地も戦争も原発も、男の文化。いかに人間は、この文化から解放されるか。その時真の幸せが来る
2020年11月17日に日本でレビュー済み
辛淑玉氏曰く、「男性は弥生時代以来退化し続けて来た」そうな。そして、近代の悪がすべて男性によりもたらされたと。
部分的に賛同できないところがないわけではないが、著者二人のイデオロギッシュさに閉口してしまった。薄っぺらい本なのに最後まで読めなかったほどに(笑)。
部分的に賛同できないところがないわけではないが、著者二人のイデオロギッシュさに閉口してしまった。薄っぺらい本なのに最後まで読めなかったほどに(笑)。