本書は凄い。竹中平蔵の生きざまを一言でまとめると「虎の威を借る狐」といったところだが、この本は、その「狐」がいかに成り上がり、無能な政治家と国民を化かして日本の政治と経済を歪めたか、克明に示している。以下、詳しく紹介しよう。
1 アメリカの外圧を内圧に
アメリカは、冷戦に勝利しソ連が大きな脅威でなくなった1990年代初頭において、日本をソ連に代わる脅威と感じるようになっていた。そして「アメリカが巨額の貿易赤字を計上しているのは、日本がアメリカに工業製品を大量に輸出しているからだ」、として、日本に対し「貿易よりも内需を拡大せよ」、と要求するようになっていた。具体的には、「内需拡大のため、公共投資を大幅に増やせ」、などと言ってきた。
竹中は、この傲慢な要求を、アメリカ政府の立場を代弁するように、そのまま自らの意見として学術雑誌等で主張した。情けないことに、日本政府は、その後、アメリカの圧力に屈するように(また、竹中の意見に従うように)、10年総額430兆円の公共投資を決めたのだった(本書p111、134)。
アメリカは、自分たちの要求がすんなり通ったのを見て増長し、厚かましくもそれ以降、「年次改革要望書」という、日本国内の制度改正・規制緩和を要求する文書を毎年日本政府に提出し、日本経済をアメリカに都合よく利用しようと試みるようになる。
ちなみに年次改革要望書において、これまでアメリカ政府が日本政府に要求し、すでに実現された項目をあげてみると、例えば以下のものがある(堤未果「株式会社アメリカの日本解体計画」p94参照)。
・人材派遣の自由化
・大店法の廃止
・会社合併手続きの柔軟化
・郵政民営化
これらの項目についても、竹中は日本政府の取るべき政策であると経済学者の立場から主張した。まさにアメリカ政府という「虎」の威を借る狐である。
2 竹中はいかにして権力の中枢に近づいて行ったか
とは言え、一民間人が日本政府の外から物を言ってもその影響力は限られている。だが竹中は、やがて日本政府の経済顧問に成り上がる。のみならず「郵政民営化」に関しては自ら小泉内閣の閣僚として関わることになった。この狡猾な男は如何なる方法を使ってそこまで到達したのだろうか?
本書によれば、その秘密を握っているのは「国際研究奨学財団」というシンクタンクだ。このシンクタンクは、日本船舶振興会、全国モーターボート競走施行者協議会をバックに持ち、豊富な資金力を有していたが、当初、国政への影響力を持ってはいなかった。それゆえ、誰かその学識をもって我が国の政治経済のあり方を指南できるような人物はいないか、財団の理事に適任の人間を物色していた。
そして財団の目に留まったのが竹中である。竹中は、かねてよりマーチン・フェルドシュタイン、フレッド・バーグステン、ローレンス・サマーズといったアメリカの経済学者を尊敬し、彼らを偶像視していた。彼らは、アメリカ政府に政治経済の在り方を指南し、政府からその学識を買われ閣僚に任命された人物だった(本書p95、109。彼らは日本政府に構造改革、規制緩和を迫った人物でもある)。同様の野心を秘めていた竹中に、国際研究奨学財団の代表のポストは「渡りに船」だった。竹中は、財団の方から誘われると二つ返事でそのポストを引き受けた(本書p144)。
国際研究奨学財団は、発足するとすぐに政策提言を日本政界に売りこんだ。政策課題を分かりやすく解説した小冊子を作成し、現職閣僚や国会議員らに送付したという(本書p148)。そこにアメリカ政府の主張と同様の、規制緩和の必要が書かれていたのは言うまでもない。竹中は、この小冊子を読んだと思われる堺屋太一(小渕内閣の経済企画庁長官)の引きで、小渕総理が創設した経済戦略会議のメンバーとなる。これが竹中の、権力の内側に入り込んだ瞬間だった。竹中は以降、政府の公式なアドヴァイザーとなり、歴代の総理大臣に規制緩和を継続的に進言するようになる(本書p152~)。
そして、竹中の規制緩和論の一環である郵政民営化論を、「政敵を潰すのに利用できる」、と考えた男がいた。小泉純一郎である。小泉は、政敵・小沢一郎の権力基盤になっていた全国特定郵便局長会の集票力と、郵便貯金・簡易保険の資金力に注目した。この集票力と資金力を削ぐには、郵政民営化が効くことに気付いた(本書p301)。そして竹中を、自らの野心のために大臣に任命して、郵政民営化を行わせようとしたのである。
3 郵政民営化を竹中と小泉はいかに国民に売り込んだか
元来、郵便局は国営だった。郵便貯金と郵便局の簡易保険で集めたお金は大蔵省の資金運用部が預かって、政府系金融機関や特殊法人に貸し付けた。この資金運用の在り方が不透明であり、かつ民間に流れるべき資金が国家のもとに滞る、との批判があった。この批判を受け、郵便貯金・簡易保険の資金は、小泉に先立つ橋本龍太郎内閣で、大蔵省資金運用部による運用から、日本郵政公社による市場での運営に改められた(本書p330)。
この改正によって郵政を民営化する必要はなくなっていた。だが、小泉は、政敵を抑え込むために、そして、ウオール街の意向を受け日本政府に郵政民営化を進めるよう求めていたブッシュ大統領に応えるために、あえて民営化を強行しようとした。必要のない民営化の強行に、国会でも異論が相次ぎ、参議院で民営化法案は否決されるに至った。
小泉純一郎は、ここで衆議院解散に打って出る。総選挙で勝てば、民営化を実現できる、と考えてのことである。だが、選挙で勝つためには、郵政民営化に関心が高いとは言えない国民を味方につける必要があった。小泉の意向を受けた竹中は、広告会社を使って一大キャンペーンを打つ。そのキャンペーンが主なターゲットにしたのは、「主婦や子供、シルバー世代など、知能指数が低く、具体的なことはわからないが、小泉総理のキャラクターに共感している人々」だったという(本書p334)。そういう人々に「総理は正しいことをしている」と思い込ませるため、竹中は小泉に、「民営化に反対するような古い自民党はぶっ潰す!」とか、「私に逆らう者は抵抗勢力だ!」とか、テレビを通じてセンセーショナルに連呼させた。のみならず、「民営化に反対する代議士には刺客を送り込む」として、その土地に縁もゆかりもない人間を、民営化に反対する代議士のいる選挙区に対立候補として擁立させた。結果、小泉は、選挙で歴史的な勝利をおさめ、郵政民営化を国策とした。首相・小泉という「虎」の威を借りた「狐」・竹中のキャンペーンに国民はすっかり化かされてしまった。
4 再び政治家に騙されないためには
これはずいぶん国民をバカにした話だ。その「上から目線」は実に腹立たしい。と同時に、何か背筋に寒気が走る感じがする。十分な根拠もなしに何事かを断定的な口調で言い、それを繰り返す、というのは、かつてヒトラーが、ル・ボンの書いた「群集心理」から学び、かつ演説で実際に用いたドイツ国民洗脳の手法だからである。
ちなみにこの手法は、安倍晋三によって踏襲された。安倍は労働法制の規制緩和の際、「岩盤規制にも私は敢然と挑む」などと、小泉に似た物言いをし、総選挙で勝利を重ねた。多くの国民は、安倍の言う「岩盤規制」なるものが何なのか、本当にそれが不要なのか、よく考えることなく安倍を勝たせてきた。労働法規においては、それは労働者の心身の健康を守るための労働時間の規制であったり、景気変動によって労働者が都合よく雇止めされないための解雇規制だったりするのだが・・・。こういった規制を緩めた結果、低賃金労働者は、雇止めの恐怖に怯えつつ過労死すれすれまで働かされた。その一方で、日本企業は全体として史上空前の利潤を獲得した。(竹信三恵子「企業ファースト化する日本」参照)。小泉の指南役だった竹中は、安倍の指南役でもあったから、小泉に教えたように国民をだます手法もしっかり安倍に教えたと思われる。
我々もそろそろ悟っていい。政治家が根拠を十分に示すことなく一定の政策について「こうするのが正しい」と断定的な口調で話すようになったら、それは我々を騙そうとしている、ということを。
アメリカ財界が次に狙っているのは、日本の医療における社会保障制度の切り崩しであり、JA(農協)が持っていると言われる600兆の金である(堤未果「株式会社アメリカの日本解体計画」p56、94)。政治家が、「日本の医療における社会保障は抜本的な改革が必要です」とか、「日本の農協は、解体しなくてはいけません」などと言い出したらご用心!であろう。
最後に、竹中平蔵やその同類に化かされないためにも、見境のない規制緩和がなぜよくないのか、あるべき日本経済とはどういうものか、それを築くために何が必要なのか、我々ひとりひとりがよく勉強すべきであると思う。その参考になる文献をあげておく。
1 原丈人さん「増補 21世紀の国富論」(公益資本主義を提唱。またITが産業として成熟期にあり、経済の動力としての力を低下させつつあるとの文明論も。)
2 トマ・ピケティ氏「21世紀の資本」(日本を含む世界の先進国で、富が個人・法人の民間富裕層に偏っていることを統計的に明らかにし、富裕層へ所得累進課税、相続増税、そして法人増税を行うべきことを指摘。)
3 内橋克人さん「共生経済が始まる」(食とエネルギーと医療介護は各地域の住民が自治的にコントロールする、というFEC経済を提唱。)
4 小関悠一郎さん「上杉鷹山 富国安民の政治」(米沢領の民が、自ら質素倹約・粉骨砕身するように、藩主鷹山が人格的模範となった。)
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市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像 単行本 – 2013/5/9
佐々木 実
(著)
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第45回大宅壮一ノンフィクション賞・第12回新潮ドキュメント賞受賞! 「構造改革」「規制改革」という錦の御旗のもと、いったい何が繰り広げられてきたのか? その中心にはいつも、竹中平蔵の存在があった。“外圧”を使ってこの国を歪めるのは誰か? 郵政民営化など構造改革路線を推し進めた政治家・官僚・学者たちは、日本をどのような国に変えてしまったのか? 8年におよぶ丹念な取材からあぶり出すノンフィクション。
第45回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品!
第12回新潮ドキュメント賞受賞作品!
「構造改革」「規制改革」という錦の御旗のもと、いったい何が繰り広げられてきたのか? その中心にはいつも、竹中平蔵というひとりの「経済学者」の存在があった。
“外圧”を使ってこの国を歪めるのは誰か? 郵政民営化など構造改革路線を推し進めた政治家・官僚・学者たちは、日本をどのような国に変えてしまったのか?
8年におよぶ丹念な取材からあぶり出された事実から描ききった、渾身のノンフィクション。
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8年におよぶ丹念な取材からあぶり出された事実から描ききった、渾身のノンフィクション。
- 本の長さ338ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2013/5/9
- 寸法14 x 2.8 x 19.5 cm
- ISBN-104062184230
- ISBN-13978-4062184236
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商品の説明
著者について
佐々木 実
佐々木 実(ささき・みのる)
1966年、大阪府生まれ。91年、大阪大学経済部卒業後、日本経済新聞社に入社。東京本社経済部、名古屋支社に勤務。95年に退社し、フリーランスのジャーナリストとして活動している。本書で、第45回大宅壮一ノンフィクション賞と第12回新潮ドキュメント賞をダブル受賞した。
佐々木 実(ささき・みのる)
1966年、大阪府生まれ。91年、大阪大学経済部卒業後、日本経済新聞社に入社。東京本社経済部、名古屋支社に勤務。95年に退社し、フリーランスのジャーナリストとして活動している。本書で、第45回大宅壮一ノンフィクション賞と第12回新潮ドキュメント賞をダブル受賞した。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2013/5/9)
- 発売日 : 2013/5/9
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 338ページ
- ISBN-10 : 4062184230
- ISBN-13 : 978-4062184236
- 寸法 : 14 x 2.8 x 19.5 cm
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2023年3月4日に日本でレビュー済み
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2021年12月9日に日本でレビュー済み
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竹中平蔵氏のやった悪行を良く調べてあると思います。本当の売国奴で、自分が得することしか考えない人ですね。悪く言う人しかいないのが良く分かりました。
経済学は、何がいいのかよく分かりませんでした。
経済学は、何がいいのかよく分かりませんでした。
2023年5月11日に日本でレビュー済み
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まさにこれ。
数々の改革は公益のためではなく、明らかに私益のため。
商才はあったのかもしれないが、公益を担う政治家の器ではない。
維新と相思相愛なのも腑に落ちる。
こういうのが政治の表舞台にのさばれば、今以上に自己中な者が増え、個人はバラバラ。相互不信の殺伐な社会が続くであろう。
こういうことをしてはいけない、という反面教師として読むべき。
数々の改革は公益のためではなく、明らかに私益のため。
商才はあったのかもしれないが、公益を担う政治家の器ではない。
維新と相思相愛なのも腑に落ちる。
こういうのが政治の表舞台にのさばれば、今以上に自己中な者が増え、個人はバラバラ。相互不信の殺伐な社会が続くであろう。
こういうことをしてはいけない、という反面教師として読むべき。
2022年10月6日に日本でレビュー済み
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こんなに不愉快な気持ちで読む本も少ないのではないか?それは多分、真実が丁寧に事細かく描かれているからであろうと思う。その真実は、あの時起こっていた事は、そういう事だったのか!という気付きももたらしてくれる。不愉快な思いをしたい方、当時の時代を知りたい方、そしてあなたに心からお勧めします。
2021年11月12日に日本でレビュー済み
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前半は竹中平蔵の生い立ち、生き方を冷静に描写。しかし、後半は一気に批判的になって行く。
竹中の批判されるべき政商まがいの動きが詳しくわかって勉強になった。一方で、彼が推し進めた小泉構造改革も、特定の学者らの言葉を引用して、否定していることには、違和感を持った。自分は市場の競争原理が成長のエンジンという竹中らの思考軸には賛成で、著者の志向とは異なるもの。
竹中の批判されるべき政商まがいの動きが詳しくわかって勉強になった。一方で、彼が推し進めた小泉構造改革も、特定の学者らの言葉を引用して、否定していることには、違和感を持った。自分は市場の競争原理が成長のエンジンという竹中らの思考軸には賛成で、著者の志向とは異なるもの。
2022年5月15日に日本でレビュー済み
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竹中平蔵という男は経済学者だった筈である。
それが小泉内閣で経済財政政策担当大臣、金融大臣を兼務し、構造改革の名を借りて凄まじいまでに権力を行使し「りそな銀行」「UFJ銀行」を破綻に追い込んだのは、まだ記憶に新しいところである。
最近、彼の姿をテレビで見たら、経済学者で政界を引退したはずの彼が、なんと「パソナの会長」に収まっているではないか。その世渡りのうまさにあきれ果てた。
本書は、その間の竹中平蔵の悪業の限りを相当程度暴き出している。
「相当程度」というのは、彼の蓄財の具体的方法までは一部を除いてまだ暴き出されていないからだ。
竹中は大学を卒業後、日本開発銀行に就職したが、そこの設備投資研究所に勤務していた当時、同僚の鈴木和志氏(現・明治大学教授)と共同研究をしていた。ところが竹中は、共同研究者の鈴木氏には無断で、その研究内容を単名の著作の中で発表してしまったのです。かくして、鈴木氏が行なった実証研究の成果は、パクられて竹中の業績になってしまった。竹中は、その著書『研究開発と設備投資の経済学』(東洋経済新報社、1984年)の「業績」によりサントリー学芸賞を受賞し、学者への道を切り開いたわけだが、その問題の本では、鈴木氏の他にも、同じく同僚の高橋伸彰氏も、自分の作成した図を竹中氏に盗用されるという被害を受けたといういう。
この頃から竹中は学者として頻繁にアメリカを訪れ、アメリカの経済学の新学説を学び、日本に紹介しだした。アメリカで経済学者としての人脈を作り、大阪大学に学位論文を提出、経済学博士の称号を得る。この博士号を引っ提げて、最終的には慶応大学の教授に収まることができた。
その後、シンクタンクの理事長に収まった竹中は、小渕内閣、に経済振興策などを提言、小泉内閣で経済政策、金融担当などの経済関係の権力を一手に掌握、小泉のいわゆる構造内閣路線に調子を合わせ、ターゲットを銀行再編に絞った。その手法は、最初から潰すべき銀行(りそな、UFJ)を決めて置いて、銀行検査の際、担当監査法人に圧力をかけ監査を過去に類例を見ないほど厳しく実行、銀行を経営破綻に追い込んだ。
当時のニュースから知る限りでもUFJを破綻に追い込む手法が強引すぎると思われたが、最初からターゲットにされていたのでは敵わない。
また、もう一つの小泉内閣の課題、郵政民営化にも理論的背景を作成しようと思ったが、なぜ郵政を民営化しなければならないのか、竹中自身、突っ込まれるとまともな回答ができない。ただ小泉に合わせるだけの行動だった。(ここで、小泉純一郎かなぜ郵政民営化に情熱を燃やしたが、民営化のメリットは何か、現代に至るまで誰も答えられない)。竹中自身の個人的立場からが、郵政のうち郵貯,簡保など郵政部門を民営化し、それをアメリカ資本に売り渡すことによって、莫大な収入が保証されていたとしか思えない。その背景として竹中の、当時のブッシュ政権との癒着ぶりが本書に詳しくかかれている。
結局、郵政民営化は小泉内閣では成立せず、小泉の引退とともに竹中も政界を去ることになるが、和歌山県の下駄屋の息子から身を起こした竹中は、この間莫大な財産を築き上げた。その収入源は本書には記載がないが、新しい政策が実行されたり、銀行再編などの実業界の動きに合わせて何らの方法で謝礼を得ていたものと思われる。
UFJ銀行は潰されたが、親友の木村剛には金融担当時代に銀行免許を許可したり、自分の実兄をミサワホームの社長にしたり、まさにやりたい放題である。
金には汚く、作家の林真理子に脱税方法を教えたりしている一方、母校一橋大学の卒業生組織「如水会」からの講演依頼には「謝礼がレベルに達せず」として断っている。
Wikipediaなどで、竹中の経済界における履歴や、現在の肩書をみるにつけて、これだけの怪物の跋扈を許した小泉純一郎の罪は大きいと言わざるを得ない。
それが小泉内閣で経済財政政策担当大臣、金融大臣を兼務し、構造改革の名を借りて凄まじいまでに権力を行使し「りそな銀行」「UFJ銀行」を破綻に追い込んだのは、まだ記憶に新しいところである。
最近、彼の姿をテレビで見たら、経済学者で政界を引退したはずの彼が、なんと「パソナの会長」に収まっているではないか。その世渡りのうまさにあきれ果てた。
本書は、その間の竹中平蔵の悪業の限りを相当程度暴き出している。
「相当程度」というのは、彼の蓄財の具体的方法までは一部を除いてまだ暴き出されていないからだ。
竹中は大学を卒業後、日本開発銀行に就職したが、そこの設備投資研究所に勤務していた当時、同僚の鈴木和志氏(現・明治大学教授)と共同研究をしていた。ところが竹中は、共同研究者の鈴木氏には無断で、その研究内容を単名の著作の中で発表してしまったのです。かくして、鈴木氏が行なった実証研究の成果は、パクられて竹中の業績になってしまった。竹中は、その著書『研究開発と設備投資の経済学』(東洋経済新報社、1984年)の「業績」によりサントリー学芸賞を受賞し、学者への道を切り開いたわけだが、その問題の本では、鈴木氏の他にも、同じく同僚の高橋伸彰氏も、自分の作成した図を竹中氏に盗用されるという被害を受けたといういう。
この頃から竹中は学者として頻繁にアメリカを訪れ、アメリカの経済学の新学説を学び、日本に紹介しだした。アメリカで経済学者としての人脈を作り、大阪大学に学位論文を提出、経済学博士の称号を得る。この博士号を引っ提げて、最終的には慶応大学の教授に収まることができた。
その後、シンクタンクの理事長に収まった竹中は、小渕内閣、に経済振興策などを提言、小泉内閣で経済政策、金融担当などの経済関係の権力を一手に掌握、小泉のいわゆる構造内閣路線に調子を合わせ、ターゲットを銀行再編に絞った。その手法は、最初から潰すべき銀行(りそな、UFJ)を決めて置いて、銀行検査の際、担当監査法人に圧力をかけ監査を過去に類例を見ないほど厳しく実行、銀行を経営破綻に追い込んだ。
当時のニュースから知る限りでもUFJを破綻に追い込む手法が強引すぎると思われたが、最初からターゲットにされていたのでは敵わない。
また、もう一つの小泉内閣の課題、郵政民営化にも理論的背景を作成しようと思ったが、なぜ郵政を民営化しなければならないのか、竹中自身、突っ込まれるとまともな回答ができない。ただ小泉に合わせるだけの行動だった。(ここで、小泉純一郎かなぜ郵政民営化に情熱を燃やしたが、民営化のメリットは何か、現代に至るまで誰も答えられない)。竹中自身の個人的立場からが、郵政のうち郵貯,簡保など郵政部門を民営化し、それをアメリカ資本に売り渡すことによって、莫大な収入が保証されていたとしか思えない。その背景として竹中の、当時のブッシュ政権との癒着ぶりが本書に詳しくかかれている。
結局、郵政民営化は小泉内閣では成立せず、小泉の引退とともに竹中も政界を去ることになるが、和歌山県の下駄屋の息子から身を起こした竹中は、この間莫大な財産を築き上げた。その収入源は本書には記載がないが、新しい政策が実行されたり、銀行再編などの実業界の動きに合わせて何らの方法で謝礼を得ていたものと思われる。
UFJ銀行は潰されたが、親友の木村剛には金融担当時代に銀行免許を許可したり、自分の実兄をミサワホームの社長にしたり、まさにやりたい放題である。
金には汚く、作家の林真理子に脱税方法を教えたりしている一方、母校一橋大学の卒業生組織「如水会」からの講演依頼には「謝礼がレベルに達せず」として断っている。
Wikipediaなどで、竹中の経済界における履歴や、現在の肩書をみるにつけて、これだけの怪物の跋扈を許した小泉純一郎の罪は大きいと言わざるを得ない。
2021年1月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
Kindle版で読了。
「竹中は、あくまで政策に関与するための手段として経済学をとらえている。もっといえば、政治権力に接近するための道具としてとらえているように見える。それは言葉よりむしろ行動にあらわれていた」(位置1308)とあるが、本書は、竹中氏の行動を丹念に取材することにより、氏の人間性を描き出すことに成功しているように思う。
本書によれば、竹中氏は、小泉政権が最優先課題として掲げた郵政民営化について、「なぜいま郵政事業の民営化を急がなければならないのか。じつをいうと、竹中自身、ほかの政治課題をすべて押しのけてまで急がなければならない理由などないことを自覚していた」(位置3484)(本書は田原総一朗が『ジャーナリズムの陥し穴 明治から東日本大震災まで』(ちくま新書)で明らかにした当時のやりとりを引用。)。橋本内閣で行われた財政投融資改革により、制度面での問題の大宗は改められていたからだという。しかし、小泉総理の「反経世会」の盟友・加藤紘一によれば、「「郵政問題」における小泉の関心は、財政投融資改革という政策論より、たしかに「対郵政族議員」に向けられていた」(位置3223)ものであり、政策的にというよりも、政治的に非常に思い入れのある施策だった(Evidence BasedならぬEmotion Based Policy)。
政策的に納得していないにも関らず、竹中氏は、総理の意を体し、理屈を捻り出し、さらには広報戦略までを仕切り、異論のある論点については、総理に直接アクセスして了解を取り、「総理の考え」として押し通していく。そして、政策を実現する過程では身銭を切ることも厭わないが、政策の果実を自らやその周辺者が享受することについては、利益相反ではなくむしろ当然の論功行賞と捉えているかのように振る舞う(倫理感を傍に置いてしまえば、政策の果実を関係者が享受することは何ら問題がないと認識される。)。
2013年に出版された本の文庫版であるが、昨今弊害が指摘されることも多い「官邸主導」の政策形成過程で暗躍し得る者の行動様式・モラルの一つの典型として読んだ。
宇沢弘文に師事した著者の「効率性のみ追求する知識人が現実の政治と固く結びついて影響力を行使するとき、取り返しのつかない災いが起きる」(位置4498)という警句は重い。
「竹中は、あくまで政策に関与するための手段として経済学をとらえている。もっといえば、政治権力に接近するための道具としてとらえているように見える。それは言葉よりむしろ行動にあらわれていた」(位置1308)とあるが、本書は、竹中氏の行動を丹念に取材することにより、氏の人間性を描き出すことに成功しているように思う。
本書によれば、竹中氏は、小泉政権が最優先課題として掲げた郵政民営化について、「なぜいま郵政事業の民営化を急がなければならないのか。じつをいうと、竹中自身、ほかの政治課題をすべて押しのけてまで急がなければならない理由などないことを自覚していた」(位置3484)(本書は田原総一朗が『ジャーナリズムの陥し穴 明治から東日本大震災まで』(ちくま新書)で明らかにした当時のやりとりを引用。)。橋本内閣で行われた財政投融資改革により、制度面での問題の大宗は改められていたからだという。しかし、小泉総理の「反経世会」の盟友・加藤紘一によれば、「「郵政問題」における小泉の関心は、財政投融資改革という政策論より、たしかに「対郵政族議員」に向けられていた」(位置3223)ものであり、政策的にというよりも、政治的に非常に思い入れのある施策だった(Evidence BasedならぬEmotion Based Policy)。
政策的に納得していないにも関らず、竹中氏は、総理の意を体し、理屈を捻り出し、さらには広報戦略までを仕切り、異論のある論点については、総理に直接アクセスして了解を取り、「総理の考え」として押し通していく。そして、政策を実現する過程では身銭を切ることも厭わないが、政策の果実を自らやその周辺者が享受することについては、利益相反ではなくむしろ当然の論功行賞と捉えているかのように振る舞う(倫理感を傍に置いてしまえば、政策の果実を関係者が享受することは何ら問題がないと認識される。)。
2013年に出版された本の文庫版であるが、昨今弊害が指摘されることも多い「官邸主導」の政策形成過程で暗躍し得る者の行動様式・モラルの一つの典型として読んだ。
宇沢弘文に師事した著者の「効率性のみ追求する知識人が現実の政治と固く結びついて影響力を行使するとき、取り返しのつかない災いが起きる」(位置4498)という警句は重い。