小説などあまり読まない主義だったが、海外ミステリも最近面白そうなものも見つけることができないから、しばらく宗旨変えしょうと思い始め、吉村昭さんの『零式戦闘機』を先日読んだが興味深かったので、これから氏の本の何を読もうかと考え、とりあえず本書『史実を追う旅』と『私の普段着』を入手した。
まずは、本書『史実を追う旅』を先に読むことにした。
本書で史実を正確に追い求めながら執拗なまでに氏が小説ネタにかかわる人たちにインタビューするため旅をする足の軽さに呆れてしまった。
吉村さんは、事実だけを正確に書く作家だからなどと持ち上げる支持者もいるが、やはり小説だから100パーセントを書くことが、氏が追い求める小説のテーマから遠のくこともあり、頑なまでに事実に拘る作家ではないことを本書で知ることができた。
『零式戦闘機』を書くために取材した零戦生みの親である堀越二郎氏の取材中に、プロペラの箇所で氏の書いたその部分の説明が、80パーセントの正確さしかないと堀越氏に追及され、堀越氏が書いた技術論文そのままを引き写して書いて下さい、とかなりきつい口調で言われたそうである。
が、吉村さんは、「御主旨はよくわかりますが、それはできません。論文をそのまま引き写すより、私は正確度80パーセントで十分です」と話し、プロペラの説明より小説家としての文章を大切にしたい、と話しながら吉村さんは、こう続ける「老練な編集者は、多少誇張があるかも知れませんが、小説家の書く文章の一行を読んだだけでも、だれのものかわかるのです。」と小説家としての矜持を説明したのである。
堀越氏は、呆然としながら「そういうものですかね。編集者は一行読んだだけでもだれの文章だかわかる・・・・・。そうですか、そういうものですか」と何度もうなずいたそうである。(本書P193〜194より)
やはり、現実に起きた過去の事件などを、作家自身が冷静な視点で忠実に客観的に捉えても「小説」にするとき100パーセント正確に描ききることなどできないことを吐露した小説家としての吉村さんの胸の内を本書で知り、なにかしら「ホッと」したのである。
手にある『私の普段着』を読み終えたら、本書で吉村さんが取材したエピソードに登場していた多くの作品のうちから何を選んで読もうかと思いながら本書を読み終えた。
昔、月刊小説誌で氏の小説を何作か読んだ記憶があるもののすっかり忘れていると思うからこれから楽しみである。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
史実を追う旅 (文春文庫 よ 1-20) 文庫 – 1991/2/10
吉村 昭
(著)
ペリー来航の本当の理由、戦艦陸奥爆沈の真相、桜田門外の変にひそむ意外な事実など、歴史小説に新しい世界を拓いた著者が綿密な取材の過程で発見したとっておきの歴史秘話。
- 本の長さ237ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日1991/2/10
- ISBN-104167169207
- ISBN-13978-4167169206
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (1991/2/10)
- 発売日 : 1991/2/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 237ページ
- ISBN-10 : 4167169207
- ISBN-13 : 978-4167169206
- Amazon 売れ筋ランキング: - 512,755位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 6,204位文春文庫
- - 8,290位近現代日本のエッセー・随筆
- - 21,518位評論・文学研究 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2013年11月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2012年3月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
吉村昭のエッセイの一つのジャンルとして、自身の作品について語るというものがある。
作品執筆のきっかけや主人公の魅力、資料探しや調査の際のエピソード、作品への思い、作品には書かれなかった興味深い事実などが綴られる。
これらのエッセイを通じて、吉村昭がどのように題材を探し、作品として仕上げていくかが見えてくる。吉村作品をさらに楽しむために、これらのエッセイにも手を延ばすことをお薦めしたい。
本書は昭和61年から平成2年にかけてのエッセイ集。
『海の祭礼』『闇を裂く道』『破獄』『陸奥爆沈』『長英逃亡』『羆嵐』『蜜蜂乱舞』「魚影の群れ」『逃亡』『幕府軍艦「回転」始末』『桜田門外ノ変』など、幅広く多くの作品が出てくる。
新事実の発見、北海道、取材プロセスなどいくつかのテーマごとに、関連する作品が並べられている。
※「吉村昭が自作を語るエッセイ集」
(1)『万年筆の旅』 (2)『歴史の影絵』 (4)『わたしの取材余話』 (5)『史実を歩く』
作品執筆のきっかけや主人公の魅力、資料探しや調査の際のエピソード、作品への思い、作品には書かれなかった興味深い事実などが綴られる。
これらのエッセイを通じて、吉村昭がどのように題材を探し、作品として仕上げていくかが見えてくる。吉村作品をさらに楽しむために、これらのエッセイにも手を延ばすことをお薦めしたい。
本書は昭和61年から平成2年にかけてのエッセイ集。
『海の祭礼』『闇を裂く道』『破獄』『陸奥爆沈』『長英逃亡』『羆嵐』『蜜蜂乱舞』「魚影の群れ」『逃亡』『幕府軍艦「回転」始末』『桜田門外ノ変』など、幅広く多くの作品が出てくる。
新事実の発見、北海道、取材プロセスなどいくつかのテーマごとに、関連する作品が並べられている。
※「吉村昭が自作を語るエッセイ集」
(1)『万年筆の旅』 (2)『歴史の影絵』 (4)『わたしの取材余話』 (5)『史実を歩く』
2021年6月24日に日本でレビュー済み
小説に比べ、本書のようなエッセイ集はとっつきやすく、職場の昼休みに少しずつ読んだ。
戦艦陸奥の沈没原因を追ったエッセイが特に興味深かった。
ちなみにNHKの1970年放送、陸奥の引き揚げ作業を記録した「ドキュメンタリー 戦艦陸奥」はNHKオンデマンドで今も視聴できる。
本書の前に、文春新書「史実を歩く」を読んだが、本書のエッセイとは別のものが収められている。
しかし「長英逃亡」や「桜田門外ノ変」についてのエッセイなど、内容的には本書と重複するものが多い。
戦艦陸奥の沈没原因を追ったエッセイが特に興味深かった。
ちなみにNHKの1970年放送、陸奥の引き揚げ作業を記録した「ドキュメンタリー 戦艦陸奥」はNHKオンデマンドで今も視聴できる。
本書の前に、文春新書「史実を歩く」を読んだが、本書のエッセイとは別のものが収められている。
しかし「長英逃亡」や「桜田門外ノ変」についてのエッセイなど、内容的には本書と重複するものが多い。