今年は、タイタニック号沈没から百周年ということで、各種メディアでも結構採り上げられましたが(もうブームも終わりかけ?)、そんな中で思い出したのが、本書の元となった『
封印されたミッキーマウス
』収録の、タイタニック絡みのスキャンダル、というか「大チョンボ」の記事でした。
改めて読んでみようと思ったら、文庫化されているというので、再度手に取ってみました。
一応、内容を紹介しますと、映画『
タイタニック
』公開当時、日本の新聞、雑誌などで盛んに取り上げられた「タイタニックから生還した、唯一人の日本人」にまつわるチョンボです。
その日本人乗客、「人を押しのけて無理矢理救命ボートに乗り込んだ」ということで欧米人からこっぴどく非難されたが、本人の手記から濡れ衣が晴れ、親族が名誉回復を霊前に報告した、と、報道されました。
当時(1997年)は「ええ話」として広く伝わり、ウィキペディアにもほぼそのままの内容で転載されていましたが、安藤氏が再取材をしてみると、全くのデタラメだったと判明!
記事の元ネタは、映画公開に合わせて持ち込まれた、いわゆるプロモーション用の「仕込み記事」で、記者も新聞社も、ろくな検証もしないまま垂れ流しにしてしまったのです。しかも、もともと欧米人からのバッシングなど存在せず、むしろ叩いたのは、「お札の顔にもなった著名人」を筆頭とした同じ日本人だったという、美談どころか醜聞そのものの真実が明るみに出ます。
安藤氏が調査に着手した時点で、既に8年が経過しており、訂正記事も打たれぬままうやむやになってしまった「タイタニック・スキャンダル」。当然、今回の「沈没百周年」でも、全く省みられることなく、完全に「なかったこと」にされました。ああ、日本人って醜いなぁ(TT)。
というか、並みの(あるいは「素直な」、もしくは「愚かな」)記者、読者なら単なる「ええ話」として丸呑みしてしまうところを、「もうちょっと深く」と徹底的に掘り下げるのが、安藤氏のすごいところだと思います。
それだけ艱難辛苦して真実まで辿り着いても、発表した途端にネット上にコピペされ、「オレは最初から怪しいと思っていたよ」なんて、モニターの前のシッタカブリどもに鼻であしらわれるのかと思うと、理不尽な世の中だと思います(注;多分に偏見に満ちた、個人の意見です)。
ちなみに、ウィキの記事も、既に修正されています。
安藤氏自身も認めているように、この本、内容は玉石混交ぎみです。文庫化に際して加筆・整理できたと自負されているようですが、それでも多少(多々?)ばらつきが見られます。「タイガーマスク騒動」のような、盛大な空振りもあるし(^^;。
安藤氏は代表作の『封印作品』シリーズのように、創作作品の裏側の取材には定評がありますが、今回は市中の噂(都市伝説?)や、新聞記事が相手だったので、ちょっと勝手が違ったのかな、とも思ったり。単品で見れば、正直、良くて星4つといったところです。
しかし、「石」に目を奪われて、見るべき「玉」まで全否定してしまってはアカンやろうと、今回はあえて、甘めに「星5つ」をつけさせていただきます。
少なくとも、「タイタニック」の記事だけでも必見です。「百周年」に合わせて、本のタイトルにしても良かったくらいだと思います(原著では評価の声が多かったのに、今回のレビューではあまり採り上げられていないのはなぜ?)。文庫化で安くなったことだし、「そんなん、知っとるわい」という方も、新鮮な目で一度読んでみて下さい。
詳細な取材と真実に至る過程は、ネットでは窺い知れない迫力ですよ。
なお、本書の内容は、原著よりもかなり加筆されていますが、「タイタニック」に関しては、あまり変わっていません。それだけ完成度が高かった証左でしょうが、(圧力か、自粛か)原著では伏せられていた新聞、雑誌の紙名、誌名が、明らかにされています。まあ、これも既にネット上では流れているんですが(笑)。
あと蛇足ですが、「封印された観光地」の最後に書かれていた一文。
「解体撤去されることで、津波の脅威が人々から忘れ去られないことを祈りたい」
……先の震災(阪神大震災)から20年近く経過し、「復興」の名の下に、当時の爪痕がほとんど消され、忘れられてしまった実例を目の当たりにしている関西在住の人間としては、深い共感を抱きました。

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ミッキーマウスはなぜ消されたか---核兵器からタイタニックまで封印された10のエピソード (河出文庫) 文庫 – 2011/10/5
安藤 健二
(著)
小学校のプールに描かれたミッキーはなぜ消されたのか? 父島には核兵器が封じられている? 古今東西の密やかな噂を突き詰めて見えてくる奇妙な符号 書き下ろしを加えた文庫オリジナル版。
- 本の長さ192ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2011/10/5
- ISBN-104309411096
- ISBN-13978-4309411095
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商品の説明
著者について
1976年、埼玉県生まれ。早稲田第一文学を卒業後、産経新聞東京本社に入社。2004年に退社して以降は、ノンフィクション・ライターとして活動中。著書に『封印作品の謎』『パチンコがアニメだらけになった理由』など。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2011/10/5)
- 発売日 : 2011/10/5
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 192ページ
- ISBN-10 : 4309411096
- ISBN-13 : 978-4309411095
- Amazon 売れ筋ランキング: - 878,163位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,851位マスメディア (本)
- - 2,873位河出文庫
- カスタマーレビュー:
著者について
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1976年埼玉県さいたま市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、産経新聞東京本社に入社。デジタルメディア局や、さいたま総局に勤務。2004年に退社して以降は、ノンフィクション・ライターとして活動中。主にサブカルチャーの裏を暴くルポルタージュを発表している。代表作は、「封印作品の謎」(大田出版)を初めとした封印作品シリーズ。同シリーズでは、「キャンディ・キャンディ」などの名作が公表されなくなった謎を追っている。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2012年6月2日に日本でレビュー済み
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2018年10月17日に日本でレビュー済み
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章ごとに内容の濃さに差があり、都市伝説を追う内容としては、その都市伝説の説明が主でその解明については不完全な感じがします。
2019年9月17日に日本でレビュー済み
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様々な憶測が飛び交う事件の中で。我々に、最も近い事件が有るとすれば。
それはきっと、ネズミ消去事件であろうと考える。
今風に言えば。大人の都合で子供の夢を壊したという、実にくだらない事件。
実は私も、アンチ・ディズニーの一人ではありますが。この話を聞く前から、ディズニーは大嫌いでした。
この話を友人にすると「あの事件のせいか?」と、必ず訪ねられますが。
実は恥ずかしながら。私はこの事件を、数年前まで知りませんでした。
私がアンチになったのは、ディズニー・プロの物作りの有り方に嫌悪感を感じたからでした。
自分自身では何一つ物語を作った事は無く。童話や絵本を、あたかも自分で作ったかの様に振舞う姿勢。
それは、版権ごと使用権を買い取って。二次使用には目を光らせ抗議する。大人のする事とは思えません。
昨今のCG映画(トイ・ストーリーとか)が作られるまで、ディズニーを評価する事はしませんでした。
最後に。数年前の弁護士ドラマのなかに出て来た、こんなセリフに安堵した覚えが有ります。
「著作権違反?ネズミの遊園地が有名だな!」同じ考えの人は居るんだなと。
それはきっと、ネズミ消去事件であろうと考える。
今風に言えば。大人の都合で子供の夢を壊したという、実にくだらない事件。
実は私も、アンチ・ディズニーの一人ではありますが。この話を聞く前から、ディズニーは大嫌いでした。
この話を友人にすると「あの事件のせいか?」と、必ず訪ねられますが。
実は恥ずかしながら。私はこの事件を、数年前まで知りませんでした。
私がアンチになったのは、ディズニー・プロの物作りの有り方に嫌悪感を感じたからでした。
自分自身では何一つ物語を作った事は無く。童話や絵本を、あたかも自分で作ったかの様に振舞う姿勢。
それは、版権ごと使用権を買い取って。二次使用には目を光らせ抗議する。大人のする事とは思えません。
昨今のCG映画(トイ・ストーリーとか)が作られるまで、ディズニーを評価する事はしませんでした。
最後に。数年前の弁護士ドラマのなかに出て来た、こんなセリフに安堵した覚えが有ります。
「著作権違反?ネズミの遊園地が有名だな!」同じ考えの人は居るんだなと。
2011年10月6日に日本でレビュー済み
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封印作品シリーズ、また安藤氏著作のファンなら、
仮に原著を持っていても押さえるべき一冊。
以前の文庫化のときもそうだったが、加筆修正の量が半端ではなく、
全く別の1冊と言っても、過言ではない。
より完璧を求め、より今を切り取ろうともがき踏ん張る
安藤氏の姿勢は、今や、単行本を何の手も加えずに文庫化する
凡百の書き手には、絶対到達できない高みに達している。
加えて、安藤氏の著作をベースに(!)安直な「封印ネタコンビニ本」を
粗製濫造するライター連を「お前ら、ここまで取材できるのかよ?」と
軽くあしらうがごとき新規収録分にも、ゾクゾクする。
被災地ルポ、角川春樹ネタ、タイガーマスク騒動……
いずれも相当に「危く、ヤバい話」だ。
本職のミステリー作家である深町秋生氏が巻末解説で書いているように、
安藤氏の仕事はもはやノンフィクションの域を超え、これは探偵小説なのか? という領域だ。
しかもネタは全て、この日本で実際に起きたことだというのだから……
仮に原著を持っていても押さえるべき一冊。
以前の文庫化のときもそうだったが、加筆修正の量が半端ではなく、
全く別の1冊と言っても、過言ではない。
より完璧を求め、より今を切り取ろうともがき踏ん張る
安藤氏の姿勢は、今や、単行本を何の手も加えずに文庫化する
凡百の書き手には、絶対到達できない高みに達している。
加えて、安藤氏の著作をベースに(!)安直な「封印ネタコンビニ本」を
粗製濫造するライター連を「お前ら、ここまで取材できるのかよ?」と
軽くあしらうがごとき新規収録分にも、ゾクゾクする。
被災地ルポ、角川春樹ネタ、タイガーマスク騒動……
いずれも相当に「危く、ヤバい話」だ。
本職のミステリー作家である深町秋生氏が巻末解説で書いているように、
安藤氏の仕事はもはやノンフィクションの域を超え、これは探偵小説なのか? という領域だ。
しかもネタは全て、この日本で実際に起きたことだというのだから……
2011年10月7日に日本でレビュー済み
以前出版されていた物を文庫化するにあたって、かなりの増補、改正を行い、また、書き下ろしも作品も加え、リーニューアルされています。計10篇のルポルタージュと言うか、記事が収録されています。
一番の読み物は、捏造された日本人差別でしょうか。良く知られていますが、タイタニック号には、1人だけ日本人の乗客がいて、しかも、あの事故で生き残り、日本へ帰還していて、その人が、YMOで有名な細野さんの祖父だというのです。しかし、その脱出方法に問題があり、バッシングを受けたと言う訳です。著者は、辛抱強く文献、関係者にあたり、それが、いわれ無きバッシングであるという事を導き出します。
次に、ミッキーマウスのタブー・・・米国では、法改正によりミッキーの著作権は、継続していますが、わが国では、著作権が消滅し、白雪姫、ファンタジア等のDVDが、500い円で販売されている事は、良くご存知だと思います。しかし、大津プール事件発生時には、著作権が存在し、それで、あのような事件が起こったのではないかと推測しています。その後、関係していた小学生をディズニー・ランドへ招待したと言う事実は、無かったようです。また、核兵器が封じられた魔の洞窟も着眼点が良く、面白く読ませます。しかし、タイガー・マスクの騒動・・・こんな話は、少し考えれば、直ぐに眉唾物とわかるはずです。そして、封印された観光地は、いかにも速成で書かれたと言う事がありありと解ります。もう少し、突っ込んだ記事に仕上げて欲しいものです。また、宮崎勤とウルトラセブンも着眼点は良いが、発想が飛躍的過ぎます。
まあ著者も前書きで書いておられますが、玉石混交の著作集です。資金不足ということはあるでしょうが、封印作品の謎の様な立派な作品も残しておられるんですから、もう少し手間隙かけて仕事をされれば良いのではないかなと思います。
一番の読み物は、捏造された日本人差別でしょうか。良く知られていますが、タイタニック号には、1人だけ日本人の乗客がいて、しかも、あの事故で生き残り、日本へ帰還していて、その人が、YMOで有名な細野さんの祖父だというのです。しかし、その脱出方法に問題があり、バッシングを受けたと言う訳です。著者は、辛抱強く文献、関係者にあたり、それが、いわれ無きバッシングであるという事を導き出します。
次に、ミッキーマウスのタブー・・・米国では、法改正によりミッキーの著作権は、継続していますが、わが国では、著作権が消滅し、白雪姫、ファンタジア等のDVDが、500い円で販売されている事は、良くご存知だと思います。しかし、大津プール事件発生時には、著作権が存在し、それで、あのような事件が起こったのではないかと推測しています。その後、関係していた小学生をディズニー・ランドへ招待したと言う事実は、無かったようです。また、核兵器が封じられた魔の洞窟も着眼点が良く、面白く読ませます。しかし、タイガー・マスクの騒動・・・こんな話は、少し考えれば、直ぐに眉唾物とわかるはずです。そして、封印された観光地は、いかにも速成で書かれたと言う事がありありと解ります。もう少し、突っ込んだ記事に仕上げて欲しいものです。また、宮崎勤とウルトラセブンも着眼点は良いが、発想が飛躍的過ぎます。
まあ著者も前書きで書いておられますが、玉石混交の著作集です。資金不足ということはあるでしょうが、封印作品の謎の様な立派な作品も残しておられるんですから、もう少し手間隙かけて仕事をされれば良いのではないかなと思います。
2012年1月12日に日本でレビュー済み
著者の封印作品シリーズは、非常に丹念な取材と検証が特徴的だった。
だから、一冊の中の項目が類書より少なくても、非常に読み応えがあった。
しかし、本書は、他のレビュアーの指摘の様に、玉石混交である、というのが残念だ。
目次を見ると、各項目のページ数にバラツキのあることが分かる。
そしてそれは、そのまま内容の密度につながっている、
たとえば、日本語の公用語をフランス語にせよという志賀直哉のものや、「ひぐらしのなく頃に」の項などは密度が比較的高い。
しかしタイガーマスク騒動や角川春樹をめぐる項は非常に薄い。
文庫というおそらくは制限のあるなかで、単行本を改訂して文庫版にした結果かもしれない。
または、著者の関心の強さによるものなのかもしれない。
だが、著者のシリーズを興味深く呼んできたものにとっては、この密度の薄さは裏切りとも見える。
深町氏の解説が充実しているだけに、大変残念な一冊だ。
だから、一冊の中の項目が類書より少なくても、非常に読み応えがあった。
しかし、本書は、他のレビュアーの指摘の様に、玉石混交である、というのが残念だ。
目次を見ると、各項目のページ数にバラツキのあることが分かる。
そしてそれは、そのまま内容の密度につながっている、
たとえば、日本語の公用語をフランス語にせよという志賀直哉のものや、「ひぐらしのなく頃に」の項などは密度が比較的高い。
しかしタイガーマスク騒動や角川春樹をめぐる項は非常に薄い。
文庫というおそらくは制限のあるなかで、単行本を改訂して文庫版にした結果かもしれない。
または、著者の関心の強さによるものなのかもしれない。
だが、著者のシリーズを興味深く呼んできたものにとっては、この密度の薄さは裏切りとも見える。
深町氏の解説が充実しているだけに、大変残念な一冊だ。
2011年10月23日に日本でレビュー済み
「封印されたミッキーマウス」の読者でもあります。
いずれも「封印作品」系のルポの質を期待して見事に裏切られました。
ハルヒと春樹のつながり、説得力ありますか。ただの思い込み、牽強付会ではありませんか。
伊達直人騒動が幾ら胡散臭く映ってもパチンコの宣伝には結び付かないですよ。
著者自らそういう結論に至ったのであればわざわざ文庫本に載せなくともよいではありませんか。
宮崎勤の章は、彼が単独犯だったのか、背後に誰かがいたのではないかというのが本来の主題のはず。
枝葉であるセブン12話の入手ルートや流出ルートに終始して横道に逸れてしまいました。
いずれも「封印作品」系のルポの質を期待して見事に裏切られました。
ハルヒと春樹のつながり、説得力ありますか。ただの思い込み、牽強付会ではありませんか。
伊達直人騒動が幾ら胡散臭く映ってもパチンコの宣伝には結び付かないですよ。
著者自らそういう結論に至ったのであればわざわざ文庫本に載せなくともよいではありませんか。
宮崎勤の章は、彼が単独犯だったのか、背後に誰かがいたのではないかというのが本来の主題のはず。
枝葉であるセブン12話の入手ルートや流出ルートに終始して横道に逸れてしまいました。