アルゼンチンの作家がオックスフォードを舞台に書いた小説。主人公で語り手を務めるのはアルゼンチンからの数学専攻の留学生。異国人から見た時のイギリス人への風刺や皮肉を書いている訳でもなく、題名通りに連続殺人は起きるものの、作者がミステリを意識しているかどうかも不明である。主人公や親しくしている教授が数学者という事で、全編に渡って数学や論理学に関する薀蓄が散りばめられる。
私は数学科出身なので、さほど抵抗は無かったが、上記の薀蓄にめげる方も多いであろう。連続事件には「論理配列」が濃厚に絡み、それに関する分析がこれまた「ゲーデルの不完全定理」などを用いて、読者を煙に巻く形で述べられる。そして、実はこの薀蓄がないと作品が成立しないのである。正直言うと、二番目の事件が起きた段階で、事件の首謀者や真相は明らかになってしまい、ミステリ的興趣は薄い。興味は「論理小説」としての出来なのだが、明かされる「論理配列」の真相はガッカリするものだ。もう少し論理学的工夫があってしかるべきであろう。それでも、最後まで「論理」で押すものと期待していたら、結局最後は人間ドラマとなってしまうのである。作者の意匠が奈辺にあるのか不明である。本筋とは関係ないが、「フェルマーの最終定理」の証明の講演より、恋人とのデートを選ぶ数学者はいないだろう(作中の講演者ワイルズは実在の人物で業績も本物)。
結末までは緊密な文体で読ませるのだが、最後まで「論理」で押して欲しかった。高い前評判と散りばめられた衒学趣味の割りには底の浅い作品。

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オックスフォード連続殺人 (扶桑社ミステリー マ 25-1) 文庫 – 2006/1/1
- 本の長さ286ページ
- 言語日本語
- 出版社扶桑社
- 発売日2006/1/1
- ISBN-104594050867
- ISBN-13978-4594050863
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2010年4月14日に日本でレビュー済み
オックスフォード大学に留学中のアルゼンチン人の“私”と世界的数学者の
セルダム教授は、“私”の下宿の家主である未亡人が射殺されているのを
発見する。
セルダム教授のもとには「論理数列の第一項」と書かれた殺人予告が
届けられており、さらにその後も、論理数列になぞらえたメッセージが
教授のもとに届くたびに不可能犯罪が発生し……。
事件が起きるたびに探偵役のもとに届けられる論理数列
を模した記号により、連続殺人と看做される本作の事件。
しかしそこには、事件全体をコントロールし、捜査陣を誤誘導
すべく「犯人」が仕掛けた、“連続性の罠”が存在しています。
こういった趣向は、過去に 前例 があり、勘のいい読者なら、すぐに
気づいてしまうかもしれませんが、アプローチの仕方や解決の演出
に、本作のオリジナリティを見出すことができます。
とくに、事件を完全にコントロールしていたはずの「犯人」が全く意想外の
悲劇を生み出してしまうという皮肉な真相は、よく出来ていると思います。
セルダム教授は、“私”の下宿の家主である未亡人が射殺されているのを
発見する。
セルダム教授のもとには「論理数列の第一項」と書かれた殺人予告が
届けられており、さらにその後も、論理数列になぞらえたメッセージが
教授のもとに届くたびに不可能犯罪が発生し……。
事件が起きるたびに探偵役のもとに届けられる論理数列
を模した記号により、連続殺人と看做される本作の事件。
しかしそこには、事件全体をコントロールし、捜査陣を誤誘導
すべく「犯人」が仕掛けた、“連続性の罠”が存在しています。
こういった趣向は、過去に 前例 があり、勘のいい読者なら、すぐに
気づいてしまうかもしれませんが、アプローチの仕方や解決の演出
に、本作のオリジナリティを見出すことができます。
とくに、事件を完全にコントロールしていたはずの「犯人」が全く意想外の
悲劇を生み出してしまうという皮肉な真相は、よく出来ていると思います。
2006年3月16日に日本でレビュー済み
一見、本格ミステリー(謎解き)小説。
ですが、それだけにとどまらない、ペダンティックな
数学、論理学的な衒学小説で、読者は本格推理小説だと思って
読む進むと、迷宮に迷い込みます。単なるミステリーではないです。
主人公は「私」で、最後まで名前は出てこないし、主な登場
人物は数学者たち。登場する場所も、一応英国なんですが、なんか
情景描写も少なく、形だけ、オックスフォードしてる。
でも、難しい議論を我慢して最後まで読むと、そこには、トンでも
ない結末と、二重、三重、無限のトリックというか、ラビリンス。
どっかで読んだような感覚にも陥りますが、さりとて、マネ本でも
なく、なんとも不思議な、傑作です。
犯人は?連続殺人はあったのか?謎解きの真相は?
もちろん、登場しますよ、その手のが。でもそれ以上です。
ですが、それだけにとどまらない、ペダンティックな
数学、論理学的な衒学小説で、読者は本格推理小説だと思って
読む進むと、迷宮に迷い込みます。単なるミステリーではないです。
主人公は「私」で、最後まで名前は出てこないし、主な登場
人物は数学者たち。登場する場所も、一応英国なんですが、なんか
情景描写も少なく、形だけ、オックスフォードしてる。
でも、難しい議論を我慢して最後まで読むと、そこには、トンでも
ない結末と、二重、三重、無限のトリックというか、ラビリンス。
どっかで読んだような感覚にも陥りますが、さりとて、マネ本でも
なく、なんとも不思議な、傑作です。
犯人は?連続殺人はあったのか?謎解きの真相は?
もちろん、登場しますよ、その手のが。でもそれ以上です。
2006年7月27日に日本でレビュー済み
この作品は不思議だ。帯にある文句には殺人予告、暗号、数学論議、など、いかにもな探偵小説を予見させる。
が、実際はそうではないのかもしれない。これらの言葉に嘘はない。が、事件の謎だけを見れば、多少の探偵小説を読んだものや、倒叙物のドラマのある回を見ていた者なら、ああ、アレかな? と予測させるもの。
本書においてはそういったこと以外に興味を惹かせる何かがあり、それが、少なくとも私にはくどさを感じさせず、ページを繰る原動力となっていたように思う。この作者がまた探偵小説を書いて翻訳されたなら、私は買う。
が、実際はそうではないのかもしれない。これらの言葉に嘘はない。が、事件の謎だけを見れば、多少の探偵小説を読んだものや、倒叙物のドラマのある回を見ていた者なら、ああ、アレかな? と予測させるもの。
本書においてはそういったこと以外に興味を惹かせる何かがあり、それが、少なくとも私にはくどさを感じさせず、ページを繰る原動力となっていたように思う。この作者がまた探偵小説を書いて翻訳されたなら、私は買う。
2007年1月28日に日本でレビュー済み
謎ときそのものはかなり単純で「なんだ」というようなものなんですが、そこに行き着くまでに繰り広げられる推理が数学および論理学にのっとったもので、数学音痴の私には半分も理解できませんでした。途中からそういう箇所はほとんど飛ばして読んでいたのですが、事件の謎の解明にはそれほど影響しなかったと思います。
妙なエピソードが挿入されていたり、本筋にはあまり関係ない登場人物が意味ありげに書かれていたり、読者を迷わせるワナというだけでなく、現実と夢の境界があいまいになってしまったかのような部分があります。南米の作家特有の資質でしょうか。でもそれが不思議に魅力的でした。
妙なエピソードが挿入されていたり、本筋にはあまり関係ない登場人物が意味ありげに書かれていたり、読者を迷わせるワナというだけでなく、現実と夢の境界があいまいになってしまったかのような部分があります。南米の作家特有の資質でしょうか。でもそれが不思議に魅力的でした。
2006年7月13日に日本でレビュー済み
確かアメリカ数学会の書評が掲載されていたので、興味を持っていました。日本語訳が出るとは思っていなかったので驚きました。あまり期待していなかったのですが、一気に読みました。無駄な展開が無く、人物描写もシンプルで、ぐいぐい引き込まれていきます。推理小節なので、詳しいことを書きませんが、数学の話題が自然に描かれていて、違和感が無いですね。数学を知っている人には、訳注がうるさく思えるでしょう。私は、オックスフォードには滞在したこと無いのですが、『テムズとともに』(学習院教養新書)などのエッセイで描かれている内容と比べると、大学や街の雰囲気が出ていたと思います。この著者のほかの作品を読みたくなりました。
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