本書は社会や時代の背景と音楽、特にいわゆる流行歌や映画音楽という時代と結び付きやすい音楽を、個人や集団の記憶という視点から論じている。
大きく分けると、「うたごえバス」「フォーク酒場」「コミュニティ・ラジオ」「「サントラ」というサークル」といった4つの場に集う人々とそこで供される音楽について、聞き取りなどを含む社会学的な調査を行っている。分量的には「フォーク酒場」の部分がやや多めで、全体をまとめた「終章」も含め、ほかは概ね同じぐらいである。
いわゆる団塊の世代を含む中高年に経済的・時間的な余裕が生じることによって、音楽と接する場と時間は増加しつつあるようだ。しかし、本書で描かれるのは、そういった人々の多くが求める音楽が、新しいものではなく、主に10代から20代にかけての青春時代に夢中になった音楽であることを明らかにしている。それらのなかには、場と強く結びついた歌を求める「うたごえバス」であったり、時代と強く結びついた「フォーク酒場」がある。しかし一方で、過去の「財産」(この場合はレコード)を生かしながら、コミュニティ・ラジオという場を得て、音楽を介しながら広く自分を表現することによって新しい世界を見出している人もいれば、過去の活動をベースに、ゆるやかな繋がりを保ちながら、過去と現在を行き来している「サントラ」OBのような人たちもいる。
個人的にもっとも面白かったのは、「フォーク酒場」の部分。おそらく、ここに登場する人たちと年代的にも近く、嗜好も同じということもあって、読んでいるだけで楽しかった。
ただ、どちらかというとノスタルジックな気分に浸る要素が強い「うたごえバス」「フォーク酒場」(登場する人のなかには、かなり活動的な人もいるが)よりも、「コミュニティ・ラジオ」に、今後を期待したい部分が強い(本書の目的とは違った感想だが)。それと、「サントラ」に集った人々には羨ましさを感じる。
書名の「メモリースケープ」を著者は“記憶の地景”としているが、本書の場合はその背景に「サウンドスケープ」(音風景)があることが前提になっているような気がしてならない。そして、本書の試みは著者が「終章」で触れたように「特定の地域と絡めてポピュラー音楽が論じられてきた」ことを超える時空間的な広がりの獲得に成功しているのではないだろうか。
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メモリースケープ―― 「あの頃」を呼び起こす音楽 単行本 – 2013/10/11
小泉 恭子
(著)
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購入オプションとあわせ買い
音楽は、眠っていた記憶を呼び覚ます。プルーストにおけるマドレーヌのように。
それは、人生の「前景」たるお気に入りの曲とは限らない。
聞き流していた「後景」の音楽ですら、「あの日、あの時、あの場所」を連れてくる。
世代を超えた「スタンダード」より、特定の世代に聴かれた「コモン・ミュージック」のほうが、
その傾向は顕著になる。
本書は、うたごえバス、フォーク酒場、コミュニティ・ラジオ、映画音楽サークルを訪ね歩き、
人生の実りの時を迎えた「ふつうの中高年」への質的調査を通じ、聴覚の個人史と文化的記憶が交わる
想起のかたちを明らかにしたフィールドワークである。
時間と空間を行き来する想起を「メモリースケープ」という概念で読み解くことで、
従来のサウンドスケープ研究を批判的に乗り越え、聴覚文化研究の新しい次元を示す。
メディアが画一化してきたノスタルジアへの反証として多様な想起のあり方を提示しながら、
高齢化の進行で勢いづくノスタルジア市場に回収されることのない、「住まわれた記憶」が拓くパースペクティヴが立ちあらわれる。
それは、人生の「前景」たるお気に入りの曲とは限らない。
聞き流していた「後景」の音楽ですら、「あの日、あの時、あの場所」を連れてくる。
世代を超えた「スタンダード」より、特定の世代に聴かれた「コモン・ミュージック」のほうが、
その傾向は顕著になる。
本書は、うたごえバス、フォーク酒場、コミュニティ・ラジオ、映画音楽サークルを訪ね歩き、
人生の実りの時を迎えた「ふつうの中高年」への質的調査を通じ、聴覚の個人史と文化的記憶が交わる
想起のかたちを明らかにしたフィールドワークである。
時間と空間を行き来する想起を「メモリースケープ」という概念で読み解くことで、
従来のサウンドスケープ研究を批判的に乗り越え、聴覚文化研究の新しい次元を示す。
メディアが画一化してきたノスタルジアへの反証として多様な想起のあり方を提示しながら、
高齢化の進行で勢いづくノスタルジア市場に回収されることのない、「住まわれた記憶」が拓くパースペクティヴが立ちあらわれる。
- 本の長さ272ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2013/10/11
- ISBN-104622077957
- ISBN-13978-4622077954
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商品の説明
著者について
小泉恭子
(こいずみ・きょうこ)
1966年大阪市生まれ。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。Ph.D.(ロンドン大学)。現在、大妻女子大学社会情報学部准教授。専門は文化社会学、音楽社会学。
著書に『音楽をまとう若者』(勁草書房2007)、成実弘至編『コスプレする社会――サブカルチャーの身体文化』(共著、せりか書房2009)、`Popular music listening as “non-resistance": the cultural reproduction of musical identity in Japanese families', in Green, L. (ed.) Learning, Teaching, and Musical Identity: Voices across Cultures (Indiana University Press 2011) ほか。
(こいずみ・きょうこ)
1966年大阪市生まれ。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。Ph.D.(ロンドン大学)。現在、大妻女子大学社会情報学部准教授。専門は文化社会学、音楽社会学。
著書に『音楽をまとう若者』(勁草書房2007)、成実弘至編『コスプレする社会――サブカルチャーの身体文化』(共著、せりか書房2009)、`Popular music listening as “non-resistance": the cultural reproduction of musical identity in Japanese families', in Green, L. (ed.) Learning, Teaching, and Musical Identity: Voices across Cultures (Indiana University Press 2011) ほか。
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2013/10/11)
- 発売日 : 2013/10/11
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 272ページ
- ISBN-10 : 4622077957
- ISBN-13 : 978-4622077954
- Amazon 売れ筋ランキング: - 763,947位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 33,317位楽譜・スコア・音楽書 (本)
- - 95,892位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年10月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
映画音楽と呼ぶより、サントラまたはフィルムミュージックと呼びたい人たちにとっては、本書を読むことをお勧めします。
サントラと映画好きの集まりであるサークルの衰退をこの様な本として記述する発想が凄いと思います。
サントラと映画好きの集まりであるサークルの衰退をこの様な本として記述する発想が凄いと思います。
2014年4月6日に日本でレビュー済み
過去を振り返るような音楽レビューを書いていることもあり、本書を興味深く読みました。
「『あの頃』を呼び起こす音楽」というのは確かに存在していますし、ある世代の共通の音楽もまた存在しています。
本書の著者の小泉恭子氏は、文化社会学、音楽社会学を専門とする研究者で、大妻女子大学社会情報学部准教授を務めています。フィールドワークを駆使し、丹念に関係者の実態に迫り、観念的ではない論証が本書の強みでしょう。
238pに書いてありますが、「音楽の聴覚体験という記憶の地景にアプローチ」し、「個人のメモリースケープをキルトのように綴った一枚の布」と本書を形容し、登場人物の「記憶が織りなす手触りであり、耳触りである」であるという一文が本書の立ち位置を明確にしていました。
序章に書かれていますが、「過去と現在を音楽が仲立ちする諸層掘り起こし分析する」ことをねらいとし、「聴覚文化研究におけるメモリースケープ(memoryscape, 記憶の地景)の理論化をはかる」ことを目指していました。
それぞれの章で取り上げられた「走る走馬灯 うたごえバス」、「『あの頃』という名の駅 フォーク酒場」、「音溝の記憶 コミュニティ・ラジオで第二の人生」、「耳で聴く映画 彼らはいかにしてサントラを愛するようになったか」で紹介された映画音楽サークル、などの集団の行動や思いを通して、共通項を探っていく過程が実に魅力的でした。
3pの「『ニューミュージック』が、登場から30年以上経ち、旧き佳き頃を呼び起こす『オールドミュージック』になったのだ」は蓋し名言でした。
最初の「うたごえバス」の存在を知らずにいましたが、歌われている曲と高度経済成長との関係考えれば、ヒットする要素を多分に含んでいる企画です。「憧れの東京はランドスケプではなく、サウンドスケープのなかに存在していた(41p)」を具体的に証明する行動パターンでしょう。
福岡におけるフォーク酒場の実態もまた興味深く掘り下げてありました。本書にも登場する、よしだたくろうの「人間なんて」にまさしくノスタルジーを思い描く世代ですので、「無言の肯定」を求め「フォークを媒介に心の内側を吐露しあう場面(89p)」の気持ちは良く分かります。「遠い世界に」や「友よ」が愛唱歌として存在する世代ですので、他の世代にはない連帯感は当然生まれるでしょう。
138pの言葉「思い出に音楽がまつわるのではなく、背景に流れる音楽があるからこそ『思い出』になる」という指摘は、まさしくそうで、「思い出装置としての音楽」という捉え方の正しさが至る所で証明してありました。
特に終章の「音楽とメモリースケープ」で丁寧に論じられた「1 ノスタルジア市場と老い」「2 集合的記憶と文化的記憶」「3 メモリーバンクとしての音楽」「4 想起の空間」「5 メモリースケープ」の項目は、音楽社会学を専攻される筆者の研究のまとめのような内容で、フィールドワークから導き出されるエッセンスを理論的に構築した内容となっていました。読み応えがある労作と言えるでしょう。
「『あの頃』を呼び起こす音楽」というのは確かに存在していますし、ある世代の共通の音楽もまた存在しています。
本書の著者の小泉恭子氏は、文化社会学、音楽社会学を専門とする研究者で、大妻女子大学社会情報学部准教授を務めています。フィールドワークを駆使し、丹念に関係者の実態に迫り、観念的ではない論証が本書の強みでしょう。
238pに書いてありますが、「音楽の聴覚体験という記憶の地景にアプローチ」し、「個人のメモリースケープをキルトのように綴った一枚の布」と本書を形容し、登場人物の「記憶が織りなす手触りであり、耳触りである」であるという一文が本書の立ち位置を明確にしていました。
序章に書かれていますが、「過去と現在を音楽が仲立ちする諸層掘り起こし分析する」ことをねらいとし、「聴覚文化研究におけるメモリースケープ(memoryscape, 記憶の地景)の理論化をはかる」ことを目指していました。
それぞれの章で取り上げられた「走る走馬灯 うたごえバス」、「『あの頃』という名の駅 フォーク酒場」、「音溝の記憶 コミュニティ・ラジオで第二の人生」、「耳で聴く映画 彼らはいかにしてサントラを愛するようになったか」で紹介された映画音楽サークル、などの集団の行動や思いを通して、共通項を探っていく過程が実に魅力的でした。
3pの「『ニューミュージック』が、登場から30年以上経ち、旧き佳き頃を呼び起こす『オールドミュージック』になったのだ」は蓋し名言でした。
最初の「うたごえバス」の存在を知らずにいましたが、歌われている曲と高度経済成長との関係考えれば、ヒットする要素を多分に含んでいる企画です。「憧れの東京はランドスケプではなく、サウンドスケープのなかに存在していた(41p)」を具体的に証明する行動パターンでしょう。
福岡におけるフォーク酒場の実態もまた興味深く掘り下げてありました。本書にも登場する、よしだたくろうの「人間なんて」にまさしくノスタルジーを思い描く世代ですので、「無言の肯定」を求め「フォークを媒介に心の内側を吐露しあう場面(89p)」の気持ちは良く分かります。「遠い世界に」や「友よ」が愛唱歌として存在する世代ですので、他の世代にはない連帯感は当然生まれるでしょう。
138pの言葉「思い出に音楽がまつわるのではなく、背景に流れる音楽があるからこそ『思い出』になる」という指摘は、まさしくそうで、「思い出装置としての音楽」という捉え方の正しさが至る所で証明してありました。
特に終章の「音楽とメモリースケープ」で丁寧に論じられた「1 ノスタルジア市場と老い」「2 集合的記憶と文化的記憶」「3 メモリーバンクとしての音楽」「4 想起の空間」「5 メモリースケープ」の項目は、音楽社会学を専攻される筆者の研究のまとめのような内容で、フィールドワークから導き出されるエッセンスを理論的に構築した内容となっていました。読み応えがある労作と言えるでしょう。