表扉の作品紹介最後の段落には、次のように書かれている。
≪ここで著者は問題を提起する。あの戦争を「愚かな戦争」と総括するのは簡単だ。しかし、負けるとわかってはいてもなお、戦いに突き進んだ祖父たちの心に思いを馳せることこそ、子孫にしかできない子孫の責務ではないのか。≫
「祖父たちの心に思いを馳せる」とは、勝手な思い込みで妄想を膨らませる、ということではない。しかし一方で、「歴史」とは実に厄介なもので、たとえ「事実」しか書かれていない「歴史」であったとしても、そこには重大な欠陥がある可能性がある、そこには書かれていない「事実」も無数にあるからだ。「事実」のみを語ればそれで「真実」を語ったことになるのだとの思い込みが、いま流行しているようにも見える。
新進気鋭の歴史哲学者、政治哲学者たる岩田温は、この著書でかなり困難な課題に挑戦しているように思われる。それは、膨大な「事実」の集積の中から「真実」を、つまり大東亜戦争のころ、私たちの父祖らが、実際に、どのような気持ちで開戦を迎えたのか、という、「本当の気持ち」に思いを馳せるという試みなのだ。
この試みは、敗戦後、情報を統制され、操作、歪曲され続けた日本ではかなり困難な課題だ。日米戦争勃発から70年以上が経過した。戦争に勝利したアメリカにおいてさえ、父祖の「本当の気持ち」を推察するのは容易なことではない。
私は本書に示された「事実」に驚愕する。そもそも本書帯からして驚かされる。
≪虚無と退廃の太宰治すら歓喜したあの戦争。なぜ日本国民は対米戦争を支持したのか?≫
あの太宰治が、日米戦争開戦に「歓喜した」のである。太宰の小説からのきらめくような引用文が、そのことを物語る。
私は、本書で採り上げられなかった「事実」のことを想像する。それは途轍もないほど膨大な書籍・資料の山だ。その中から厳選されて本書で示された「事実」には著者の「怒り」とともに、「歯痒さ」が渦巻いている。
「怒り」。私たちの「祖父たち」が戦った戦争を、にべもなく「愚かな戦争」であったと断罪する者たちへの「怒り」。
「歯がゆさ」。「伝えきれていないのではないか?」という痛烈な「自問」「自省」。これは、著者に自信がない、ということではない。もっとキッチリ「伝えたい」という歯ぎしりにも似た激情が伝わってくる、ということだ。これが、形容しがたい強靭な迫力に昇華している。
ここでは、あえて本書の内容に言及するのを避けた。それは実際に本書を手に取り、熟読し、衝撃を体感してほしいからだ。稀有な体験になることは必定。
私ははじめに掲げた作品紹介の「子孫にしかできない子孫の責務」というものを、本書を手に取った時からずっと考え続けていた。「責務」とは、しなければならない務めのことだ。それはいい。私が考えたのは、「にしかできない」という所だ。
父母や祖父祖母、私たちは彼らが完璧な人間性を備えた人間である、あった、とは思っていない。むしろ欠点ばかりが目について「駄目な人だなあ、情けないなあ」と思うこともしばしばだったかもしれない。しかし、彼らは私たちを大切にし、なんだかんだ言いながら、私たちも彼らを大切に思っている、そんなことはおくびにも出さないで。
私たちしかいなのだ、彼らの「本当の気持ち」に思いを馳せることができるのは、私たちしかいない。清濁併せのんでそのままの姿を受けとめることができるのは、子孫たる私たちにしか、できない。
私たちは知っている。私たちが完全な人間から程遠い人間であることを。彼らも知っていたのだ。そして最善を尽くした、尽くそうとした。「良き人」であろうとしたのだ。ダメかもしれない、それでも渾身の力を振り絞って、「良き人」たらんとしたのだ。この力がアメリカだけでなく、世界を驚愕させた。感動させた。日本は敗れた。しかし、大東亜戦争によって、敗れたとはいえ、世界は動いたのだ、激動したのだ。欧米列強に支配された、世界中の植民地だった国々は、次々と独立していったではないか。だから今でも、心ある人々は、その日本の偉業を忘れずに日本に好意を寄せてくれるのだ。
本書を読みながら、著者・岩田温の祖父が、孫のすべてを、存在全てを受け入れて目を細めて見守っている、そんな姿を想像した。むろん空想である。しかし彼は確かに、孫のすべてを受け入れて、孫を見守っていた。
著者の試みは成功していると思う。本書を読むことは、稀有な体験になる。著者の思いが、読者に刻印される。
(目次概略)
まえがき
序章 あまりに異常だったナチス・ドイツの犯罪
第一章 みずから選択した大東亜戦争
第二章 世界侵略を正当化した人種差別思想
第三章 奴隷貿易と無縁ではなかった日本
第四章 「植民地にされる」とはどういうことなのか
第五章 日本が求めた、欧米列強と対等の名誉ある地位
第六章 人種差別撤廃の理想を世界に問うた日本
第七章 アメリカの大義を刷り込まれ日本人は日本が戦った大義を知らない
付録 大東亜共同宣言
あとがき

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だから、日本人は「戦争」を選んだ (オークラNEXT新書) 新書 – 2012/11/27
岩田 温
(著)
昭和十六年十二月八日、日本はハワイ真珠湾とマレー半島で米英軍と戦端を開いた。彼我のGDP差はおよそ七倍、いかにも無謀な戦争であった。
四年の敢闘も虚しく日本は敗北。明治維新以来営々と築き上げた海外領土、栄光の歴史を誇った陸海軍は消え去った。国土は焦土と化し、軍民あわせて三百万人以上が死んだ。大日本帝国は全てを失い、アメリカの指導の下、平和国家日本が再建された。
これが、我々日本人の子供たちが学校で習う「太平洋戦争」の歴史的評価だ。理由もなく無謀な戦争に突入したのでは、日本人は愚かであったというより他ない。
ここで著者は問題を提起する。あの戦争を「愚かな戦争」と総括するのは簡単だ。しかし、負けるとわかってはいてもなお、戦いに突き進んだ祖父たちの心に思いを馳せることこそ、子孫にしかできない子孫の責務ではないか。
虚無と退廃の太宰治すら歓喜したあの戦争。なぜ日本国民は対米開戦を支持したのか?
・あまりに異常だったナチス・ドイツの犯罪。
・みずから選択した東亜戦争。
・世界侵略を正当化した人種差別問題。
・奴隷貿易と無縁ではなかった日本。
・「植民地にされる」とはどういうことか。
・日本が求めた、欧米列強と対等の名誉ある地位。
・人種差別撤廃の理想を世界中に問うた日本。
・日本人はアメリカの大義しか知らない。
四年の敢闘も虚しく日本は敗北。明治維新以来営々と築き上げた海外領土、栄光の歴史を誇った陸海軍は消え去った。国土は焦土と化し、軍民あわせて三百万人以上が死んだ。大日本帝国は全てを失い、アメリカの指導の下、平和国家日本が再建された。
これが、我々日本人の子供たちが学校で習う「太平洋戦争」の歴史的評価だ。理由もなく無謀な戦争に突入したのでは、日本人は愚かであったというより他ない。
ここで著者は問題を提起する。あの戦争を「愚かな戦争」と総括するのは簡単だ。しかし、負けるとわかってはいてもなお、戦いに突き進んだ祖父たちの心に思いを馳せることこそ、子孫にしかできない子孫の責務ではないか。
虚無と退廃の太宰治すら歓喜したあの戦争。なぜ日本国民は対米開戦を支持したのか?
・あまりに異常だったナチス・ドイツの犯罪。
・みずから選択した東亜戦争。
・世界侵略を正当化した人種差別問題。
・奴隷貿易と無縁ではなかった日本。
・「植民地にされる」とはどういうことか。
・日本が求めた、欧米列強と対等の名誉ある地位。
・人種差別撤廃の理想を世界中に問うた日本。
・日本人はアメリカの大義しか知らない。
- 本の長さ239ページ
- 言語日本語
- 出版社オークラ出版
- 発売日2012/11/27
- ISBN-10477551959X
- ISBN-13978-4775519592
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登録情報
- 出版社 : オークラ出版 (2012/11/27)
- 発売日 : 2012/11/27
- 言語 : 日本語
- 新書 : 239ページ
- ISBN-10 : 477551959X
- ISBN-13 : 978-4775519592
- Amazon 売れ筋ランキング: - 886,480位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年9月23日に日本でレビュー済み
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日本の国民の多くが対米開戦を支持したこと、開戦時に快哉を上げたことは、現在あまり伝えられていませんので、そのことを記憶しておくよう、注意を喚起していることは価値があると思います。
しかし、日本人が人種差別と東アジアを欧米の植民地状態から解放するために満州を建国し、対中戦争の泥沼にはまり、対米開戦して兵站を無視して戦線を広げたと考えることは無理です。欧米の帝国主義に国力が不十分なまま帝国主義で挑んで戦線を拡大しすぎて失敗したのですから、経済面からの分析が必要です。また、自滅がわかっていたのに路線を変えることができなかった政府と軍部指導部の組織論の研究は、なされていますが、いまだ足りません。世論の分析を進める必要があることは、確かだと思います。大東亜宣言をまじめに持ち上げているようでは、ナイーブな右翼が書いた本という、まるで役に立たない本であるとしか言えません。
しかし、日本人が人種差別と東アジアを欧米の植民地状態から解放するために満州を建国し、対中戦争の泥沼にはまり、対米開戦して兵站を無視して戦線を広げたと考えることは無理です。欧米の帝国主義に国力が不十分なまま帝国主義で挑んで戦線を拡大しすぎて失敗したのですから、経済面からの分析が必要です。また、自滅がわかっていたのに路線を変えることができなかった政府と軍部指導部の組織論の研究は、なされていますが、いまだ足りません。世論の分析を進める必要があることは、確かだと思います。大東亜宣言をまじめに持ち上げているようでは、ナイーブな右翼が書いた本という、まるで役に立たない本であるとしか言えません。
2016年2月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
先の大戦は、西洋の仕掛けた罠にまんまとはまって戦争に突入してしまったのですね。
2016年2月8日に日本でレビュー済み
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人それぞれの考え方は、あって良いと思います。今はなぜか統一されているようで、あまり良い状況ではないようです。
2013年6月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書では、日本が戦争に至った原因として、欧米人の有色人種に対する人種差別意識に焦点を当てている。これはユニークな視点だと思うが、これのみを戦争の原因とするには無理があるのではないか。
米国における排日移民法の制定や、国際連盟憲章の人種差別撤廃条項が否決されたことを例に挙げ、当時の有色人種に対する欧米人の差別意識や差別的制度を述べている。そして、日本の政治家や知識人、新聞の言説などから、日本人がそれらを解消すべく尽力していた事実も述べられている。
しかし、多くの日本人がその人種差別意識を認識していたことの根拠は挙げられていない。人種差別撤廃条項が否決された一方、日本は国際連盟の常任理事国という地位も得ていたわけで、日本全体が欧米人の人種差別意識を疎ましく思っていたとの感触を私は持つことができなかった。そして、一部の人たちの人種差別を解消しようとする意志のみで戦争に至るとも思えない。
欧米の人種差別に異議を唱えた戦いだったことは、大東亜戦争の一面ではあると思う。著者もいろいろな要因が絡み合って日本が戦争を選んだことはわかっているのであろうが、本書を読んだ人は人種差別意識やそれに基づく制度のみが戦争の原因だったと解してしまうのではないか。
全人類の自由・平等・博愛を世界に広めたのごときイメージを持たれている(いや、他人種に持たせようとしている、というべきか)欧米人(特にアメリカ人)が、実はこの間まで持っていた強い人種差別意識に焦点を当てたことは高く評価する。
米国における排日移民法の制定や、国際連盟憲章の人種差別撤廃条項が否決されたことを例に挙げ、当時の有色人種に対する欧米人の差別意識や差別的制度を述べている。そして、日本の政治家や知識人、新聞の言説などから、日本人がそれらを解消すべく尽力していた事実も述べられている。
しかし、多くの日本人がその人種差別意識を認識していたことの根拠は挙げられていない。人種差別撤廃条項が否決された一方、日本は国際連盟の常任理事国という地位も得ていたわけで、日本全体が欧米人の人種差別意識を疎ましく思っていたとの感触を私は持つことができなかった。そして、一部の人たちの人種差別を解消しようとする意志のみで戦争に至るとも思えない。
欧米の人種差別に異議を唱えた戦いだったことは、大東亜戦争の一面ではあると思う。著者もいろいろな要因が絡み合って日本が戦争を選んだことはわかっているのであろうが、本書を読んだ人は人種差別意識やそれに基づく制度のみが戦争の原因だったと解してしまうのではないか。
全人類の自由・平等・博愛を世界に広めたのごときイメージを持たれている(いや、他人種に持たせようとしている、というべきか)欧米人(特にアメリカ人)が、実はこの間まで持っていた強い人種差別意識に焦点を当てたことは高く評価する。
2013年4月4日に日本でレビュー済み
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日本の国益を守る国家戦略の下、世界各国からの謀略に取り囲まれ和平の道筋すら見えず止むに止むを得ず開戦の火ぶたを切ったこととなる、後進の小国が勇敢に戦ったことは歴史が語るところです、現在は発展途上国への協力援助、工業力、経済力、そして医学界、文化、スポーツ面と多岐にわたり世界で能力を十分に発揮、今や世界のリーダー国として世界平和に貢献し続けることでしょう、このことは世界大戦で学んだ後学の賜物であると思い息子、孫たちへ語り伝えます、文武両道有りは日本人の誇りであります。
2013年3月13日に日本でレビュー済み
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「大東亜戦争」と呼んでいた先の大戦が戦われた理由を歴史の流れの中で掘り下げた良書である。この流れには15世紀以来の白人による有色人種差別と殺戮の歴史、ベルサイユ体制で人種平等の原則が葬り去られた経緯、アメリカにおける排日法、アジアの植民地の歴史、戦後独立した国々の指導者の発言、ナチスドイツのジェノサイド、開戦時の日本国民の心理などが取り上げられている。多くの方々、特に東京裁判(極東軍事裁判)史観のみを教えられた人々には是非読んで頂き、日本人としての誇りを取り戻して貰いたい本である。