嫌韓本を読む人は何を期待するのだろうか。日韓関係の知識を得たいと思う人もいるだろう。また、韓国に対する知識はあるが、あの理不尽な韓国人の反日に対する「日本人の怒り」を発散させてくれるために読む人もいるだろう。しかし、この本はそのどちらのタイプにも満足を与えらず、不満を残す本であると思う。基本的に個人的感想を述べたエッセイ的な本だ。
著者は2013年9月に韓国からカナダに移住した韓国人。日本への滞在期間は３か月ほど。著者が韓国内で経験した韓国人の過度な情緒的愛国心や反日に関する著者の批判的感想を述べたものだ。著者のまじめさだけは読者に伝わってくるのだが、個人的エピソードを中心としたのんびりした展開に、途中でイライラして読むのをやめようかと思ったほどだ。
だが、韓国人の歴史観におおきな影響を与えたといわれる趙廷来の反日歴史小説『アリラン』に関する個所は韓国人にしか書けない部分で、この箇所まで来たときに、「途中でやめないでよかった」と思った。『アリラン』は韓国で350万部も売れた超ベストセラー。暗黒と虐殺の植民地時代が描かれる。植民地時代に400万人の韓国人が殺された。農民が警官に銃殺された。千島列島で飛行場の建設の後、4000人の韓国人徴用者が虐殺された。これらは皆虚偽なのだが、作者の趙廷来は真実だと主張してやまない。また、韓国人はこれを真実の時代小説として信じているというのだ。植民地近代化論の李栄薫ソウル大教授が歴史的資料をもとにこの小説が虚偽であると反論したが、逆に李栄薫教授自身が韓国社会から個人攻撃を受けることになった。韓国では歴史的事実よりも、反日情緒の方が、「真実を決める」のだ。そしてさらに反日情緒が拡大されていく。この顛末は読みごたえがある。
最後に、著者のチョン・ジョン氏にも読者として反論したいことがある。著者は、朴槿恵大統領が反日ではないとして、日本人が朴槿恵大統領に反日のレッテルを張っていることを批判しているが、外国まで行って日本を批判する「告げ口外交」やディスカウント・ジャパンは反日の最たるものだ。次に、天皇を日王と呼ぶのは、著者が言うような天皇を貶めるためだけにあるのではなく、明治時代の国書問題が背景にある。韓国は依然として、中国の皇帝を頂点とする事大主義から抜け出せないのだと思う。もうひとつ、東日本大地震の時に、多くの韓国人は日本人のために涙を流し、寄付をした、と著者は言うが、そのように感じていない日本人がほとんどだと思う。サッカー場の「日本の大地震をお祝いします」などの横断幕や放射能汚染に関する過度な韓国の報道は、地震や原発事故を「日本沈没」と喜ぶ情緒が背後にあるように思う。
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