本書は、大日本帝国憲法(帝国憲法)と、その逐条注釈書である「憲法義解」を現代語訳したうえで、編著者が「憲法義解」の記述を解説し、コメントを付したものである。
全部で76条ある帝国憲法の各条文の解説は、次の1~5の項目から構成されている。
1.帝国憲法の条文原文
2.同条文の現代語訳
3.同条文に対する「憲法義解」註釈の現代語化
4.「憲法義解」説明内容に対する編著者の解説、ときにはコメント
5.前掲帝国憲法条文と関連する日本国憲法条文
この本の第一の効用は、帝国憲法の各条文に触れ、そしてその公式な註釈を読むことで、帝国憲法制定時においてなぜこの条文が必要とされたのかを知ることができる点にある。
少し大きい六法であれば帝国憲法の全条文が掲載されているのだが、その記載は日本国憲法の記載とは対照的に控えめ(地味)なので、法学部出身者といえどもこれを通読・理解している人は、なかなかいない。ましてや「憲法義解」に至っては岩波文庫所収だが、重版出来のタイミングでもない限り書店で参照し入手することは困難であり、原文も文語体で現代的な意味での解説書とは程遠い書物である。
高等学校の「日本史」や大学の憲法学テキストの片隅に記載されているだけの「教科書的知識」の対象でしかなかった帝国憲法および「憲法義解」であるが、本書のおかげでその実体に触れることが出来、また各条文の存在意義を、現代語表記の註釈を通じて深く理解することが出来るようになったことは間違いない。
この点は特に評価に値すると思われる。
また、帝国憲法起草の任にあたった伊藤博文をとその幕下が当時としては先進的かつ合理的な思考をしていたこと、当時の欧米各国の憲法典を蒐集し各国制度の比較検討・評価を行なっていたこと、そして帝国憲法の各所に(現代風にいえば)「立憲主義」の思想を織り込んでいたことなどを実際に知ることができる点も、評価したい。
この本を読む限り、伊藤博文は、憲法起草・制定という近代国家の基盤を築いた人物であり、文字通り「明治国家のファウンダー」のひとりとして、もっと再評価されるべきではないか、という思いを抱かざるを得ない。
繰り返しになるが、本書は現代人にとり「明治時代の一史料」でしかなかった帝国憲法と「憲法義解」について、現代人の国語力で原文に触れることを可能にした画期的な参考書である。また、伊藤博文とその幕下の思慮深さと先進性を再認識させてくれる本でもある。
だが、他のレビューでも言及されている通り、本書は日本国憲法各条文の当否を評価するための判断材料とは、ならない。
いかに伝統ある帝国憲法といえども、帝国憲法自身で定める手続に遵ってすでに1947年に旧法は効力が失われており、「憲法義解」についても旧法の註釈であることを超えるものではない。
そうはいっても、本書が日本国憲法の理解に寄与するところはある。たとえば、帝国憲法で規定されている制度と日本国憲法で規定されている制度との間には、随所に相関関係があり、もっと踏み込んで言えば制度として「連続性」を有している部分が存することを、読者に再認識させてくれるのである。
「帝国憲法→旧いもの、滅んだもの」、「日本国憲法→新しいもの、活きているもの」という単純図式化された一般的な憲法史認識をあらため、今でも生きる帝国憲法の思想を再認識するために、本書は有意義な書物であると思われた。
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「憲法とは何か」を伊藤博文に学ぶー「憲法義解」現代語訳&解説ー 単行本(ソフトカバー) – 2015/4/30
相澤 理
(著)
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- 本の長さ319ページ
- 言語日本語
- 出版社アーク出版
- 発売日2015/4/30
- ISBN-104860591526
- ISBN-13978-4860591526
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商品の説明
出版社からのコメント
戦後70年という節目を迎える2015年は、憲法改正論議が、より活発になっています。しかし、条文ばかりが俎上にあげられ「そもそも憲法とは何か」を見失ってはいないでしょうか。本書は、明治維新後、近代的な立憲国家をめざし、憲法を起草した伊藤博文らの逐条解説書である『憲法義解』を現代語訳したうえで、わかりやすく解説しました。明治の世の政治家や学者が、どれほど高邁に精神をいだいていたかも読み取れます。憲法改正を考えるにあたって大きな指針となる「日本人として読むべき1冊」です。
登録情報
- 出版社 : アーク出版 (2015/4/30)
- 発売日 : 2015/4/30
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 319ページ
- ISBN-10 : 4860591526
- ISBN-13 : 978-4860591526
- Amazon 売れ筋ランキング: - 196,176位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 129位憲法 (本)
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2015年10月1日に日本でレビュー済み
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2018年2月23日に日本でレビュー済み
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しました。
憲法義解をベースにしているのはよいのですが、
肯定的解釈に終止しているのが残念です。
もう少し多角的に記述してほしかったです。
憲法義解をベースにしているのはよいのですが、
肯定的解釈に終止しているのが残念です。
もう少し多角的に記述してほしかったです。
2019年8月21日に日本でレビュー済み
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憲法を学ぶために明治憲法から学ぶというのは考えても見なかったが、この本を読んでみてその重要性に気づかされた。今の憲法が米国から押し付けられた憲法とか、マッカーサー憲法とか揶揄されることも多いが、たとえそうだったとしても旧憲法と現憲法はつながっているのである。それがそもそもどういう経緯で制定され現憲法でどう変わったのかを理解することによって憲法をより俯瞰的に深く理解できると思った。
また、旧憲法が今一般に考えられているよりも先進的であり、リベラルな印象だったのも驚きだった。旧憲法のために先の戦争は避けられなかったという意見も多いのだが、むしろこの憲法でも戦争はされられなかった、憲法には限界があると認識すべきと本書を読んで思ったのだった。
また、旧憲法が今一般に考えられているよりも先進的であり、リベラルな印象だったのも驚きだった。旧憲法のために先の戦争は避けられなかったという意見も多いのだが、むしろこの憲法でも戦争はされられなかった、憲法には限界があると認識すべきと本書を読んで思ったのだった。
2015年6月23日に日本でレビュー済み
憲法の条文をいじくる、つまり憲法改正について議論する前に
「憲法とは何か」を知っておく必要があります。
それはいじくる必要が無いという立場の人も同じです。
「権力を縛る為のもの」でしょ?それこそが立憲主義。
そう思ったあなた。半分正解ですが、それだけでは落第です。
著者の言う通り本書を2回読んで、「憲法とは何か」の
残り半分を見つけ出して下さい。
「憲法とは何か」を知っておく必要があります。
それはいじくる必要が無いという立場の人も同じです。
「権力を縛る為のもの」でしょ?それこそが立憲主義。
そう思ったあなた。半分正解ですが、それだけでは落第です。
著者の言う通り本書を2回読んで、「憲法とは何か」の
残り半分を見つけ出して下さい。
2015年5月22日に日本でレビュー済み
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素晴らしい。憲法を学ぶにあたって憲法義解は必読の書であるにもかかわらず、今まで現代語訳が出版されていなかったのは、憲法の学会など、学者の怠慢にほかならない。読まれるとその素晴らしさに気づき、格調の高さに気づいてしまうからだろうか。
最近は憲法改正論議が盛んだが、その際の必読文献にすべきだ。
最近は憲法改正論議が盛んだが、その際の必読文献にすべきだ。
2015年6月21日に日本でレビュー済み
永久保存版である。
帝国憲法の条文と関連するいわゆる日本国憲法の条文も同時に記載され、対比しなが
ら読むことが出来、又、巻末にいわゆる日本国憲法が全て記載されており、値段以上の
価値がある。
よく、帝国憲法が、軍部の暴走を招いたであるとか、国民に自由がなかったであるとか、
何かと悪者扱いの帝国憲法であるが、百歩譲って、仮にそういう問題があったとしても、
それは帝国憲法の問題ではなく、運用する方の問題である。
いわゆる日本国憲法が民主主義憲法と言われているが、制定に国民は加わっておらず、
占領下に武力を背景に無理やり押し付けられた。
これのどこが民定憲法であるのか。占領法の何物でもない。
これを正統とするのであれば、今後クーデターや暴力革命を行って、その者たちが掲げた
物を憲法と主張すれば憲法と認められることになる。
いわゆる日本国憲法はこの無法な憲法に対して論理的には対抗出来ない。
本書を読めば、憲法という物は内容もさることながら成立の仕方がそれ以上に重要である
ことがわかるはずだ。
そうであるならば、護憲は論外として、いわゆる日本国憲法の改正で良いのか。
それで戦後体制からの脱却が出来るのか。
戦後“レジーム”と掲げる段階でアメリカからの束縛から逃れられないだろう。
日本の誇りを取り戻すのであれば、「体制」という言葉を使えばよろしい。
伊藤博文先生をはじめ、明治の先生方が我が国を列強の食い物にされない、真の独立国
としての日本を作り上げるために、どれだけの心血を注いで帝国憲法を作り上げたか。
アメリカに落書きされたものの一部を改正しただけで、戦後体制から脱却したなどと優越感
に浸ることがあれば、伊藤博文先生はあの世からどういう顔をするのであろうか。
開いた口が塞がらないのではないだろうか。
帝国憲法の条文と関連するいわゆる日本国憲法の条文も同時に記載され、対比しなが
ら読むことが出来、又、巻末にいわゆる日本国憲法が全て記載されており、値段以上の
価値がある。
よく、帝国憲法が、軍部の暴走を招いたであるとか、国民に自由がなかったであるとか、
何かと悪者扱いの帝国憲法であるが、百歩譲って、仮にそういう問題があったとしても、
それは帝国憲法の問題ではなく、運用する方の問題である。
いわゆる日本国憲法が民主主義憲法と言われているが、制定に国民は加わっておらず、
占領下に武力を背景に無理やり押し付けられた。
これのどこが民定憲法であるのか。占領法の何物でもない。
これを正統とするのであれば、今後クーデターや暴力革命を行って、その者たちが掲げた
物を憲法と主張すれば憲法と認められることになる。
いわゆる日本国憲法はこの無法な憲法に対して論理的には対抗出来ない。
本書を読めば、憲法という物は内容もさることながら成立の仕方がそれ以上に重要である
ことがわかるはずだ。
そうであるならば、護憲は論外として、いわゆる日本国憲法の改正で良いのか。
それで戦後体制からの脱却が出来るのか。
戦後“レジーム”と掲げる段階でアメリカからの束縛から逃れられないだろう。
日本の誇りを取り戻すのであれば、「体制」という言葉を使えばよろしい。
伊藤博文先生をはじめ、明治の先生方が我が国を列強の食い物にされない、真の独立国
としての日本を作り上げるために、どれだけの心血を注いで帝国憲法を作り上げたか。
アメリカに落書きされたものの一部を改正しただけで、戦後体制から脱却したなどと優越感
に浸ることがあれば、伊藤博文先生はあの世からどういう顔をするのであろうか。
開いた口が塞がらないのではないだろうか。
2015年8月21日に日本でレビュー済み
日本の初代総理大臣の伊藤博文が憲法を作った際に書いた
解説書「憲法義解」、最近の改憲議論もあり、一度読みたいと思っていました。
しかし、わたくしはIP-NW技術者で、原文では読めない、現代語訳を
探していたところでした。
ある意味システム設計の仕様書の解説書のようで、
国の形を、歴史と当時の世界の情勢とから、とても理想をもって
一つのシステムとして機能するように作成したものであったと
感心するばかりです。
そして日本は今も昔のその根本は実際は変わっていないのだと思うと
改憲するならば、もっと理想を込めた数百年の先の日本を考えて、
小手先でなく、歴史伝統を受け継いで、次の世代につなげて行きたいものだと思いました。
解説書「憲法義解」、最近の改憲議論もあり、一度読みたいと思っていました。
しかし、わたくしはIP-NW技術者で、原文では読めない、現代語訳を
探していたところでした。
ある意味システム設計の仕様書の解説書のようで、
国の形を、歴史と当時の世界の情勢とから、とても理想をもって
一つのシステムとして機能するように作成したものであったと
感心するばかりです。
そして日本は今も昔のその根本は実際は変わっていないのだと思うと
改憲するならば、もっと理想を込めた数百年の先の日本を考えて、
小手先でなく、歴史伝統を受け継いで、次の世代につなげて行きたいものだと思いました。
2015年6月11日に日本でレビュー済み
歴史的な史料としての価値はあるかもしれないが、2015年の改憲論議に当たって読み直すべきものであるとは思えない。
もちろん、明治憲法が「それほど」悪いものではなかったとか、「当時にあっては」最先端のものであったとかいうことはその通りかもしれないが、明治憲法の下における政治・行政・社会等の実態や、経済的その他の格差等を見るだけでも、「だから何?」と言いたくなる。
また、「国民(臣民)の権利は『法律の範囲内』で制限されていた(22条)といった……条文の言葉尻を捉えることから生じる誤解」(はじめに)などと言うが、実際に明治憲法の下でどれほど人権が制限されていたかを無視している。さらに、「戦前の警察による拷問や自白の強要は、伊藤の意図に反するものでした」(100ページ)と言うが、そもそも、明治憲法制定から敗戦まで、拷問や自白の強要が常態的に行われていたにもかかわらず、これらをなくそうとする立法その他の実効的な方策は全くとられていない。伊藤らに、拷問や自白の強要をなくす気などなかったからだろう。
他にも、「伊藤博文が憲法に埋め込んだ〈立憲主義〉の精神が見失われてしまったことが、軍部の暴走を招いたのです。」(64ページ)などと言うが、軍部の暴走を招く余地のあった欠陥品であった、と言う方が適切だろう。
「……人権保障にも限界があった。第一に、人権の背景をなす考え方が、絶対的な権威をもつ天皇がその臣民に対して恩恵を与えるものという立場を基盤としており、西欧の自然権思想に裏づけられた、人間として生まれながらにもつ人権という観念を欠いており、その具体的な現れとして、人権の制約を容易にすることとなった。第二に、その保障が何よりも行政権による侵害に対するものであった。もちろん、国民の権利や自由に制約を加えるときは、法治主義の原則に基づいて議会の協賛を得た法律という法形式によることを原則として必要とするが、法律による制約に対しては別段の保障手段をもたず、『法律の範囲内』において保障されているにとどまった(信教の自由については……法律によらずに制限できるとされていた)。このように、権利の保障にはいわゆる『法律の留保』(……)を伴っていたのである。第三に、人権の保障もしばしば不完全であった。華族という特殊の身分を認めて、それに貴族院議員となりうる特権を与えたり、信教の自由を保障しつつも、実際において神社は宗教ではないという理由をつけて、国教的な特殊の扱いをするなど、権利や自由にいくつもの例外を承認していたのである。以上のような反民主的な側面の結果として明治憲法のもとで公権力による人権侵害の行われたことは歴史の示すところである。」(伊藤正己『憲法(第三版)』45-46ページ)
「このようにして、明治憲法の歩みは、起草者の考えていた程度の立憲主義すら否認する方向にすすみ、ついに太平洋戦争を経て、日本の降伏に至り、明治憲法はその基本的性格を変更することを求められることになったのである。」(同上50ページ)
日本国憲法には「たとえば、信教の自由や人身の自由について詳しきに失すると思える規定がおかれているが、簡潔な憲法規定のもとで国家権力がこれらの自由を侵害したことへの反省がこめられていると考えられる。」(同上58ページ)
もちろん、明治憲法が「それほど」悪いものではなかったとか、「当時にあっては」最先端のものであったとかいうことはその通りかもしれないが、明治憲法の下における政治・行政・社会等の実態や、経済的その他の格差等を見るだけでも、「だから何?」と言いたくなる。
また、「国民(臣民)の権利は『法律の範囲内』で制限されていた(22条)といった……条文の言葉尻を捉えることから生じる誤解」(はじめに)などと言うが、実際に明治憲法の下でどれほど人権が制限されていたかを無視している。さらに、「戦前の警察による拷問や自白の強要は、伊藤の意図に反するものでした」(100ページ)と言うが、そもそも、明治憲法制定から敗戦まで、拷問や自白の強要が常態的に行われていたにもかかわらず、これらをなくそうとする立法その他の実効的な方策は全くとられていない。伊藤らに、拷問や自白の強要をなくす気などなかったからだろう。
他にも、「伊藤博文が憲法に埋め込んだ〈立憲主義〉の精神が見失われてしまったことが、軍部の暴走を招いたのです。」(64ページ)などと言うが、軍部の暴走を招く余地のあった欠陥品であった、と言う方が適切だろう。
「……人権保障にも限界があった。第一に、人権の背景をなす考え方が、絶対的な権威をもつ天皇がその臣民に対して恩恵を与えるものという立場を基盤としており、西欧の自然権思想に裏づけられた、人間として生まれながらにもつ人権という観念を欠いており、その具体的な現れとして、人権の制約を容易にすることとなった。第二に、その保障が何よりも行政権による侵害に対するものであった。もちろん、国民の権利や自由に制約を加えるときは、法治主義の原則に基づいて議会の協賛を得た法律という法形式によることを原則として必要とするが、法律による制約に対しては別段の保障手段をもたず、『法律の範囲内』において保障されているにとどまった(信教の自由については……法律によらずに制限できるとされていた)。このように、権利の保障にはいわゆる『法律の留保』(……)を伴っていたのである。第三に、人権の保障もしばしば不完全であった。華族という特殊の身分を認めて、それに貴族院議員となりうる特権を与えたり、信教の自由を保障しつつも、実際において神社は宗教ではないという理由をつけて、国教的な特殊の扱いをするなど、権利や自由にいくつもの例外を承認していたのである。以上のような反民主的な側面の結果として明治憲法のもとで公権力による人権侵害の行われたことは歴史の示すところである。」(伊藤正己『憲法(第三版)』45-46ページ)
「このようにして、明治憲法の歩みは、起草者の考えていた程度の立憲主義すら否認する方向にすすみ、ついに太平洋戦争を経て、日本の降伏に至り、明治憲法はその基本的性格を変更することを求められることになったのである。」(同上50ページ)
日本国憲法には「たとえば、信教の自由や人身の自由について詳しきに失すると思える規定がおかれているが、簡潔な憲法規定のもとで国家権力がこれらの自由を侵害したことへの反省がこめられていると考えられる。」(同上58ページ)