昨年11月に神田「山の上ホテル」での岡田英弘氏のシンポジウムで、倉山満が「イギリスの歴史教科書では」と発言したとき、唐突な印象があったのだが、本書を読んで了解した。世界の歴史教科書と日本の代表的な教科書「山川日本史」を比較しながら、原稿を書いていた最中だったのだろう。
本書で、著者は「世界の歴史教科書の常識」を述べている。
1 「疑わしきは、自国の利益に」
2 「自国の過誤は、徹底的に正当化せよ」
これは、実際に記述するときは幅があるのだが、基本的な理念としては当然そういうことだろう。歴史の教科書というのは、まず、第一に、国民という自覚と誇りを植え付けることを目的とする。「歴史」は、自分たちがそこに生きていることの正当性を保証するものだからである。その意味で、著者が言うように、「歴史は、民族の統合、支配の道具であり、外交の武器である」というのは真実だ。
本書では、山川書店版の歴史教科書をまな板に載せて議論が展開される。その議論の詳細は、関心のある方は直接あたることが一番だろうから触れない。
しかし、著者の指摘は鋭く適切だ。
日本の歴史を貫く精神的権威としての「天皇」の存在。危機に際して日本人の統合の象徴として現れる「皇統」の存在や明治以降の「国民国家の形成」を肯定的に教科書で触れることがタブーになっている。朝河貫一は、「危機に際して顕れる皇統の伝統」こそが日本史の精髄だとまで書いているのだが。
また、「靖国」を考えれば明らかなことだが、参拝反対派の人々は、近現代の日本が独立を守るために避けようもなかった戦いにおける「犠牲と追悼」という意味を全く考えていない。まるで、日本が近代国家など形成せず植民地化されて被害者であれば良かったと思っているかのようである。
日本が植民地化されていれば、現在の国際社会などなく、靖国批判者達の安逸な生活などなかったはずなのだが・・・。
本書は、多種多様な「歴史学会」等、著者が受ける可能性がある現世的なリスクを覚悟した「勇気ある告発の書」である。
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