内容に不安を覚えるような題名や表紙だったが,中身は予想を裏切る有益なもの.
『坂の上の雲』がNHKにて放送されたのに合わせての出版なのだろうが,史料批判を徹底して行っており,やっつけ出版などでは全く無し.
かつ,『坂の上の雲』発の俗説の誤りに斬り込むだけにとどまらず,旅順戦,日本海海戦,奉天会戦の実相を描き出すところにまで,記述は及ぶ.
当方にとっても間違えて覚えていたこと,知らなかったことが,意外に多数.
▼
旅順要塞攻撃編:
西方面主攻論とは?(p.9-12)
旅順の露軍兵力を,かなり下算して見積もっていた大本営(p.14)
第7師団が第1回総攻撃の段階で投入されていれば,極めて可能性が高かった望台占領(p.14)
第3軍に渡された地図のお粗末さ(p.14)
実際は前線偵察もちゃんと行っていた第3軍参謀(p.15)
東北方面攻撃案,西北方面攻撃案を比較考量した結果,前者を選んだ第3軍司令部(p.16)
攻路掘開が比較的容易だった東北方面(p.17)
歩兵突撃を実行したのは,「砲弾の関係上」やむをえない選択(p.18-19)
当時の戦術常識(p.19)
第2回総攻撃は,正攻法と強襲法の折衷(p.21)
死角をカバーし合う,203高地周辺の露軍陣地帯(p.22-23)
直接視認できる可能性がある位置には事実上,存在しなかった軽砲の死角(p.24-25)
最大の障害,永久堡塁本体の外壕(p.24-25)
部分攻撃実施を困難にした,砲弾の不足(p.27)
砲弾不足と言う取り返しの付かない事態になりかねないことを恐れ,二段階攻撃案を案出した大庭(p.29-30)
第3軍が203高地攻略を後回しにした理由(p.32-33)
第2回総攻撃の後も,203高地主攻に反対していたのは,満州軍総司令部(p.34-35)
露軍の夜襲の撃退をもって,山頂占領を確信できた日本軍(p.41)
重砲陣地転換の本当の目的(p.42)
転換のデメリット(p.44-45)
旅順陥落の理由(p.45-49)
203高地が陥落すれば,旅順艦隊を壊滅させることができるかどうかについて,確証があるわけではなかった,その当時(p.50-51)
「最初は無防備」ではなかった203高地(p.52-53)
旅順要塞が降伏したのは,203高地が陥落したからではなく,望台が陥落したから(p.54-55)
御前会議における,海軍の「脅し」(p.57)
28cm砲「送るに及ばず」は,長岡の思い違い(p.66)
旅順攻略を,海軍より先に言い出した陸軍(p.131-133)
▼
日本海海戦関連:
「波高し」のため,三浦湾に帰還した水雷艇隊(p.69)
「団子になってやってきた」バルチック艦隊(p.70)
かなり後まで影響を及ぼした,バルチック艦隊の艦隊運動失敗(p.72)
完全な「先頭艦集中射撃」というわけでもなかった日本艦隊(p.75)
下瀬火薬の窒息効果(p.77)
ロシア第3戦艦隊の遊兵化(p.77)
T字をなした時期に,戦闘を一旦中止してしまった日本艦隊第1戦隊(p.78)
ロシア艦隊の戦闘力には殆ど影響がなかった,「T字」の時間帯(p.88)
実質的に開始後30分で決着が付いていた日本海海戦(p.90-93)
「丁字」戦法の構造的欠陥(p.91,93)
短時間でしかなかった,「丁字」が完成された時間帯(p.92-93)
ロシア艦隊に最も打撃を与えたのは並航砲戦(p.93)
当時,戦艦は文字通り不沈艦だったため,長期化した海戦(p.95)
秋山「丁字」理論の実際(p.94-97)
「イ字」でもない(p.96-97)
決して宮廷官僚ではなかった,ロジェストウェンスキイの経歴(p.98-101)
その後の東郷元帥の「老害」(p.102-104)
▼
秋山関連:
騎兵戦術の3大革命(p.107-108)
挺身行動への変化(p.108-109)
当時の騎兵戦術「常識」(p.110)
土城子の戦い(p.110-111)
秋山の述べる騎兵の用途,「捜索」「警戒」(p.112)
ロシア軍重騎兵に対抗するための,秋山の考え方(p.112)
日本軍騎兵の特色となった,随伴砲兵・随伴機関砲(p.113)
「ミシチェンコの8日間」(p.114-116)
威力を発揮した,日本軍騎兵の機関砲(p.116-118)
問題を残していた対歩兵戦(p.118-119)
▼
児玉関連:
児玉の執務スタイル(p.132-134)
遼陽会戦における,総司令部の回答不明確(p.136-137)
首山堡論争(p.136-139)
「味方撃ち」の逸話の真実(p.150-151)
「肉弾」を承認した児玉(p.151-152)
黒浩台会戦の敗因(p.154-157)
「ミラー・イメージ」の陥穽(p.158-159)
児玉の「才」の中身(p.157)
▼
奉天会戦関連:
実は包囲だった奉天会戦(p.163-168)
当時と今の「包囲」の概念の違い(p.168)
やはり殲滅を意図していた日本軍(p.168)
第3軍を増強しなかった失敗(p.170-171)
4個軍が轡を並べて露軍を撃破しようという意図だった満州軍総司令部(p.176)
乃木の意図(p.178-179)
高くついた前進停止命令(p.180-181)
▼
その他:
伊地知の秘密任務(p.62-65)
秋山真之と孫文との繋がり(p.123-124)
大本教に帰依した秋山(p.125)
「価値判断抜き」というところに価値がある公刊戦史(p.126)
落合参謀転出理由(p.140)
上田師団長問題(p.144-145)
沙河会戦において,日本軍に悪影響を及ぼしたルーズヴェルト提案(p.146-147)
日本軍最良の諜報組織(p.160)
東条英機の父親は,本当に長閥の犠牲者だったのか?(p.172-173)
私怨臭のする伊崎解任問題(p.182-183)
戦費について洞察力のあった大山巌(p.184-186)
28cm砲導入反対論を抑えた大山(p.188)
日露国力(p.191-197)
「日露戦争で,最も得をしたのは英国かもしれない」(p.202-203)
日米危機の火種(p.204-205)
▼
ただし構成に難あり.
見開き2ページが上下で2分割され,上と下とで別の記事が併進しているような箇所が,何箇所もあり,読み辛し.
普通の構成でも,別に支障はないように見えるが,なぜそうしなかったのか?
また,執筆者が複数であるためか,重複内容も若干あり.
▼
初心者にも比較的関心がありそうな部分から始めつつ,次第に深く掘り下げていくという点では,橋渡し的存在.
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坂の上の雲 5つの疑問 単行本 – 2011/12/1
ゲームジャーナル編集部
(著)
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購入オプションとあわせ買い
日露戦争を描いた歴史小説の決定版といえば、巨匠・司馬遼太郎の名作「坂の上の雲」を真っ先にあげることができます。多くのファンにとって、「坂の上の雲」の記述こそが、日露戦争の戦史そのものと言っても過言ではないでしょう。しかし「坂の上の雲」はたしかに良くできた作品ではありますが、多くの誇張や演出を含んだあくまで小説であり、歴史的事実そのものの記述ではないにもかからず、司馬遼太郎によって描かれた歴史像を、そのまま歴史的事実であるかのように信じているファンが、今なお多いことも事実です。本書では、「司馬遼太郎史観」の実像と虚像について、5つのエピソードを取り上げて検証していきます。乃木第三軍無能説は嘘だった/二〇三高地は児玉が落としたのではない/実は時代遅れだった秋山“騎兵旅団”/東郷ターンは丁字戦法ではなかった/奉天会戦は中央突破ではなかった
- 本の長さ215ページ
- 言語日本語
- 出版社並木書房
- 発売日2011/12/1
- ISBN-104890632840
- ISBN-13978-4890632848
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商品の説明
著者について
「ゲームジャーナル」はゲーマーによるゲーマーのためのボードシミュレーションゲームの専門誌です。雑誌には歴史上の戦いをシミュレートしたボードゲームが毎号収録され、収録作品に関する特集記事と連載記事が掲載されています。これまで収録されたウォーゲームのうち7点が英訳されて世界中でプレーされています。うち5作品がボードゲーム界で最も権威のあるチャールズロバーツ賞にノミネートされ、3作品が最優秀ウォーゲーム作品に選ばれています。
登録情報
- 出版社 : 並木書房 (2011/12/1)
- 発売日 : 2011/12/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 215ページ
- ISBN-10 : 4890632840
- ISBN-13 : 978-4890632848
- Amazon 売れ筋ランキング: - 840,549位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年7月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ウォーゲームは、個人が当事者の立場になって考えられると都合が悪いから、嫌う人たちがいるんだと思ってしまいます。PCゲーム(最新os対応)でどこか出さないもんですかね。
2012年2月20日に日本でレビュー済み
有名なロングセラーに投げかける5つの疑問。
乃木の第三軍司令部は無能ではなかった!
日本海海戦の勝因はT字戦法ではなかった!
実は時代遅れだった秋山騎兵旅団!
などの「坂の上の雲」に描かれ、歴史的事実と思われていたことを
検証した書である。
実際には5つに留まることなく、各将軍たちの言動の検証、軍人と
しての評価も含め、日露戦争全般に及んでいる。
テーマとしては上に挙げた他に、児玉源太郎と奉天会戦の二つを
加えた5つなのだが、周囲の動きをも含めているので良く言えば
厚みが出たが、悪く言えば散漫な一冊となった。
旅順攻防戦の項はなかなか力が入っていて読み応えがあったが、
T字戦法は旅順艦隊の逃走を許した連合艦隊がその二の舞を恐れ、
バルチック艦隊の逃走を断固阻止する意志の表明であったのでは
ないか。
また、秋山は世界で初めて騎兵に機関銃を装備し、馬を下りて
戦ったのだそうだから、時代遅れというタイトルはそぐわない。
このようなタイトルと内容との齟齬が、やや気になる。
ついでにいえば、本書のタイトル、何も「5つ」でなくても小分けに
して「100の疑問」にしたって良いのじゃないか?
5つと絞ったタイトルの割には、焦点がボケていると思う。
「『坂の上の雲』の粗さがしではない」といってはいるが、そうで
あるとするならば、結局は描かれた人物像に反する意見、すなわち
司馬遼太郎が捨てた情報の雑多な開陳にすぎない、ということになる。
(司馬遼が知らなかった、とは言っているものの…)
一歩、踏み込んだものを期待していたのだが…。
乃木の第三軍司令部は無能ではなかった!
日本海海戦の勝因はT字戦法ではなかった!
実は時代遅れだった秋山騎兵旅団!
などの「坂の上の雲」に描かれ、歴史的事実と思われていたことを
検証した書である。
実際には5つに留まることなく、各将軍たちの言動の検証、軍人と
しての評価も含め、日露戦争全般に及んでいる。
テーマとしては上に挙げた他に、児玉源太郎と奉天会戦の二つを
加えた5つなのだが、周囲の動きをも含めているので良く言えば
厚みが出たが、悪く言えば散漫な一冊となった。
旅順攻防戦の項はなかなか力が入っていて読み応えがあったが、
T字戦法は旅順艦隊の逃走を許した連合艦隊がその二の舞を恐れ、
バルチック艦隊の逃走を断固阻止する意志の表明であったのでは
ないか。
また、秋山は世界で初めて騎兵に機関銃を装備し、馬を下りて
戦ったのだそうだから、時代遅れというタイトルはそぐわない。
このようなタイトルと内容との齟齬が、やや気になる。
ついでにいえば、本書のタイトル、何も「5つ」でなくても小分けに
して「100の疑問」にしたって良いのじゃないか?
5つと絞ったタイトルの割には、焦点がボケていると思う。
「『坂の上の雲』の粗さがしではない」といってはいるが、そうで
あるとするならば、結局は描かれた人物像に反する意見、すなわち
司馬遼太郎が捨てた情報の雑多な開陳にすぎない、ということになる。
(司馬遼が知らなかった、とは言っているものの…)
一歩、踏み込んだものを期待していたのだが…。
2014年4月25日に日本でレビュー済み
司馬遼太郎批判は、その著者の売名目的の本が多いのであまり興味がない。
この本は、いつも参考にしているレビュアーの方がよい評価をしていたので読んでみた。
残念ながら、はじめに批判ありきの論のすすめ方になっていて、牽強付会が過ぎるように思う。
しかし、この本の価値は、ていねいに記されている参考文献だろう。
『坂の上の雲』に書かれていることの出典がわかりたいへん興味深い。
一般には入手しづらい文献ばかりなのが残念だが。
「実像と虚像」の判断は、この本を読む人がそれぞれでおこなえばよいだろう。
それを抜きにして、文献集として読むのも一興だと思う。
この本は、いつも参考にしているレビュアーの方がよい評価をしていたので読んでみた。
残念ながら、はじめに批判ありきの論のすすめ方になっていて、牽強付会が過ぎるように思う。
しかし、この本の価値は、ていねいに記されている参考文献だろう。
『坂の上の雲』に書かれていることの出典がわかりたいへん興味深い。
一般には入手しづらい文献ばかりなのが残念だが。
「実像と虚像」の判断は、この本を読む人がそれぞれでおこなえばよいだろう。
それを抜きにして、文献集として読むのも一興だと思う。
2012年1月1日に日本でレビュー済み
「坂の上の雲」に便乗して何点かの日露戦争関連本が出た2011年でしたが、おそらく本書はその数少ない収穫です。
基本的には小説「坂の上の雲」に記述された日露戦争の記述についての「疑問」を検証するというスタイルですが、むしろ小説とは無関係に「旅順の早期陥落はあるのか」「日本海海戦における丁字戦法の是非」「奉天会戦における日本軍の作戦構想は中央突破か包囲か」等いった古典的な論争に一石を投じる内容となっており、小説については「定説」を紹介するために使用されていると見た方がよいでしょう。
内容に関しては各項いずれも力作というべき内容ですが、陸戦関係の多くの項を担当している長南氏の論考が特に光る内容です。
一次資料の紹介とともに、最近の出版物にも目配せが行き届いており、記述もバランスのとれたものとなっているように思います。その主張を肯定するのであれ否定するのであれ、真面目に読みこめば多くのものが得られる内容でしょう。
並木書房からの日露戦争本は「坂の上の雲ではわからない〜」シリーズなど、あまり良い内容のものがなかったのですが、本書は出色の出来であり、日露戦争に対してある程度の知識と興味をもっている人は一読することをお勧め出来る内容となっています。
欠点としては、全体に日露戦争(あるは「坂の上の雲」)全体像を概観する記述がなく「知っている人向け」の構成であり、ライトな装丁にもかかわらず、初学の人には難しいと思われること、コラムなどが充実している反面、やや読みづらいレイアウトになっていることがあげられると思います。またタイトルの制約のためか、項によっては、まとめに多少の苦しさを感じる部分もあり☆4つとしていますが、気にならない人にとっては大した瑕疵ではなく☆5つとしてもよいと思います。
基本的には小説「坂の上の雲」に記述された日露戦争の記述についての「疑問」を検証するというスタイルですが、むしろ小説とは無関係に「旅順の早期陥落はあるのか」「日本海海戦における丁字戦法の是非」「奉天会戦における日本軍の作戦構想は中央突破か包囲か」等いった古典的な論争に一石を投じる内容となっており、小説については「定説」を紹介するために使用されていると見た方がよいでしょう。
内容に関しては各項いずれも力作というべき内容ですが、陸戦関係の多くの項を担当している長南氏の論考が特に光る内容です。
一次資料の紹介とともに、最近の出版物にも目配せが行き届いており、記述もバランスのとれたものとなっているように思います。その主張を肯定するのであれ否定するのであれ、真面目に読みこめば多くのものが得られる内容でしょう。
並木書房からの日露戦争本は「坂の上の雲ではわからない〜」シリーズなど、あまり良い内容のものがなかったのですが、本書は出色の出来であり、日露戦争に対してある程度の知識と興味をもっている人は一読することをお勧め出来る内容となっています。
欠点としては、全体に日露戦争(あるは「坂の上の雲」)全体像を概観する記述がなく「知っている人向け」の構成であり、ライトな装丁にもかかわらず、初学の人には難しいと思われること、コラムなどが充実している反面、やや読みづらいレイアウトになっていることがあげられると思います。またタイトルの制約のためか、項によっては、まとめに多少の苦しさを感じる部分もあり☆4つとしていますが、気にならない人にとっては大した瑕疵ではなく☆5つとしてもよいと思います。
2011年12月10日に日本でレビュー済み
「坂の上の雲」を取り上げた類書が多数ある中で「日露戦争の史実はどうだったか?」ということを真正面から取り上げている点が評価に値します。
本書では、「児玉が本当に重砲転換を実施したのか?」「児玉は天才作戦家だったのか?」「もし、第一回旅順総攻撃時から203高地を攻めていたらどうなっていたのか?」「児玉は大山から第三軍の指揮権委譲を許可する一札をもらっていたのか?」などなどの点を、従来と異なる視点を提示する形で書かれており、しかも、そうした論旨を、類書のように史料に依拠しない「たられば論」や「空論」で展開するのでは無しに、これまで研究者も学術論文で利用したことがない参謀の日記や、書簡といった一次史料や、参謀の回想といった二次史料を駆使して論証しているのも好印象である。学術論文のように註記がしっかりついていて、どの史料を典拠として書かれているかきちんと明記されているのも、他の類書とは違って好印象が持てる。
特に興味深かったのは、司馬遼太郎が文庫版出版に際しあとがきで書いた「首山堡と落合」の誤りを史料を使用し論証したり、大庭二郎や井上幾太郎など第三軍幕僚の視点から論じた旅順攻撃の考察、伊地知幸介の再評価などである。伊地知が意外に活躍したことがあったり、日露戦後、明石元二郎が参謀次長に出世後に「無能」と周囲から評価されていたことにびっくりしました。
また、ウイキペデイアや他の本では、「児玉が大山から第三軍の指揮権委譲を許可する一札をもらっていた史料的根拠はない」と書かれてますが、本書には「第三軍の指揮権委譲を許可する一札」の原文が引用されている点も、とても新鮮でした。
本書では、「児玉が本当に重砲転換を実施したのか?」「児玉は天才作戦家だったのか?」「もし、第一回旅順総攻撃時から203高地を攻めていたらどうなっていたのか?」「児玉は大山から第三軍の指揮権委譲を許可する一札をもらっていたのか?」などなどの点を、従来と異なる視点を提示する形で書かれており、しかも、そうした論旨を、類書のように史料に依拠しない「たられば論」や「空論」で展開するのでは無しに、これまで研究者も学術論文で利用したことがない参謀の日記や、書簡といった一次史料や、参謀の回想といった二次史料を駆使して論証しているのも好印象である。学術論文のように註記がしっかりついていて、どの史料を典拠として書かれているかきちんと明記されているのも、他の類書とは違って好印象が持てる。
特に興味深かったのは、司馬遼太郎が文庫版出版に際しあとがきで書いた「首山堡と落合」の誤りを史料を使用し論証したり、大庭二郎や井上幾太郎など第三軍幕僚の視点から論じた旅順攻撃の考察、伊地知幸介の再評価などである。伊地知が意外に活躍したことがあったり、日露戦後、明石元二郎が参謀次長に出世後に「無能」と周囲から評価されていたことにびっくりしました。
また、ウイキペデイアや他の本では、「児玉が大山から第三軍の指揮権委譲を許可する一札をもらっていた史料的根拠はない」と書かれてますが、本書には「第三軍の指揮権委譲を許可する一札」の原文が引用されている点も、とても新鮮でした。
2011年12月10日に日本でレビュー済み
小説「坂の上の雲」こそ史実として認識していた読者にとって、史実と比較した場合、司馬遼太郎風の脚色がしてあることを知り、日露戦争を新たな視点で見直すことができた。