カンを知って聴いている人間なら知っていることだが、マルコム・ムーニーとダモ鈴木以外の四人の当時30代のドイツ人は、音楽家としてある程度キャリアがあった。それがどうしたわけか、ドイツのケルン城を乗っ取って、いつまでも出鱈目な、アナーキーな演奏をするようになった。
この「カニバリズム」に収録されている曲は、いちおうロックとしてていをなしてはいるけど、もともとは雑音同然の音の塊を、ホルガ―・シューカイが編集したものである。「ユー・ドゥー・ライト」などは、半日以上かかった演奏をむりやり20分にしたという。エイフェックス・ツインもびっくりである。
ディスク1よりも、後期カンの曲が収まっているディスク2の曲のほうが、出来はイイ。けど、若いころの自分は、14分あった「マザー・スカイ」に熱狂していた。このCDでは上手に編集されているが。
そのホルガ―も、いなくなった。ヤキもいない。ミヒャエルもいない。生きているのは、イルミンのみ。
このディスクには、勇気あるドイツ人のあらゆる試行錯誤が、いびつなかたちで収録されている。聴きたいやつだけ、聴けばいいのだ。僕は、19歳でこれを聴いて、今も聴いている。