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「トルコ行進曲付」の第11番、ソナチネ・アルバムに収められている第15番-どちらもとびきりの有名曲であり、モーツァルトの曲の中でというより、ピアノ音楽すべての中で最もよく知られている部類に属するだろう。
演奏しているのは、ジャズも弾く異才として知られる名手フリードリヒ・グルダ。録音は1961、65、77年。大胆だが理知的ないき方で、歌うよりは語るような、歓声をあげるよりはしゃれたジョークをとばすような演奏だ。
第11番第1楽章、第15番第2楽章(ともにアンダンテ)あたりが、彼の個性が特にはっきり出た演奏といえるだろう。どちらもゆっくりとしたテンポを取る。
第11番では、コロコロとしたクリアな音が印象的。音楽がおだやかに流れているところでは、山間の透明な清流を思わせる。巧妙にペダルを利かせて音をぼかしたところでは、霧につつまれた川面がかすかに揺れているといった風情だ。硬質な音から、ほとんど輪郭がとけてしまったような音に至るまで、その微妙な諧調をあやつる妙技に感服させられる。
第15番では、さまざまな歩調で道を行くありさまが思い浮かぶ。一歩、一歩、確かめるような足取りで進むところがあると思えば、踊るような歩き方になるところもある。いずれにせよ、まっしぐらに前進するというより、周りの景色を楽しみつつ歩く感じだ。強弱のつけ方は、その場その場のコントラストを強調するのではなく、大きな流れの中での効果を計算している。(松本泰樹)
メディア掲載レビューほか
これらのソナタは,かつてグルダがアマデオ・レーベルに録音したもの全部。主観的な情念が入りこまない,美的で感性豊かな演奏。何よりも,音楽の細部で起こっているさまざまなことに対する鋭敏さがすごい魅力。まさに天才肌のピアニストの演奏。
-- 内容(「CDジャーナル」データベースより)