新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」が劇場公開されている岩井俊二監督の作品です。劇場公開の映画としてデビュー作となった「
打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? [DVD
]
を六年後に振り返って、関係者が語るドキュメントです。
冒頭で、なずな役の奥菜恵、典道役の山崎裕太の二人が電車に乗って飯岡駅に降り立ちます。撮影当時の駅と重ね合わせて当時を振り返ります。撮影当時十二歳と十三歳の二人は、このとき十九歳。
次に、フジテレビのプロデューサーが企画段階での岩井俊二監督とのやりとりを明かします。「if もしも」シリーズのルールを無視し、監督がやりたいことを潜り込ませようとした執念が語られます。
次に、ルールに従うよう台本を書き直した岩井俊二が、ここに潜り込ませた小説作品として宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を紹介します。紙人形劇で粗筋を紹介した後、監督が宮沢賢治への深い造詣と熱い思いを語ります。
2016年の新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」では、主人公の七海が匿名のアカウント「クラムボン」と名乗っています。
「クラムボン」は小説の中でも語られますが
セロ弾きのゴーシュ (角川文庫)
に収録されている掌編「やまなし」から。兄弟のカニが、川底から眺める水泡の輝きに付けた名前です。
その後、事情により変更したアカウント名「カムパネルラ」も同じく宮沢賢治作品から。
このDVDで紹介されている「銀河鉄道の夜」の主人公「ジョバンニ」の親友です。
次に、監督が大学生の頃に書いた脚本「檸檬哀歌」を、奥菜恵と山崎裕太二人が、撮影が行われた小学校で読み合わせします。これは、後に「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」でなずなが典道を駆け落ちに誘うプロットとして生かされるものです。
後半は、撮影秘話。印象深いプールでのシーンは、外灯がプールの水面に反射する幻想的な映像ですが、その着想を語る監督の、作品に込めた思いに感じるところが多かったです。
岩井監督作品が好きなら、是非とも手元に置いておきたいDVDです。
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」
装いは、単に他より少しよくできたジョブナイルドラマです。
でも、なぜ、何年経っても、僕の心に残り、見返す度に感動を新たにするのか。
数ある宮沢賢治オマージュ作品のなかでも傑出したこの作品が、
岩井俊二監督が僕にとって、特別な映画監督である要素が盛り込まれているのだろうな。と思います。