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甘いロマンティシズムよりは、気位の高さ。聴き手におもねる煽情性よりは、屹立した孤高の境地――。いまから40年も前の演奏というのに、少しも古さを感じさせないのは、ミルシテインの芸風が、現代的でクールな感覚をある意味先取りしていたからだろうか。
ウクライナのオデッサ生まれの名ヴァイオリニスト、ナタン・ミルシテイン(1904-1992)は、いまも特に玄人筋に絶大な支持があり、現代の多くのヴァイオリニストたちの尊敬の的となっている。
ミルシテインは、どんな曲目を弾いていても、硬質で純度の高い音楽を奏でる。音程もリズムも、無類の正確な技術を持っているのに、技術の存在が前に出ない。そこには音楽しか感じさせない。
十八番であるヴィターリ「シャコンヌ」やタルティーニ「悪魔のトリル」はもちろんのこと、ジュスキント指揮コンサートアーツ管弦楽団をバックに従えたベートーヴェン「ロマンス第2番」、モーツァルト「ロンドK.373」「アダージョK.261」が素晴らしい。音が少なくシンプルな歌謡的な作品では、技巧型のヴァイオリニストは退屈になりかねないが、その点ミルシテインは次元が違う。音が少ないほど、深みのある音楽がじわじわと実感され、しびれるような感動を与えてくれる。
選曲のバランスもいい。ミルシテインが最も積極的に録音を行っていた膨大な量のキャピトル時代の音源から、最良のものばかりが選ばれている。(林田直樹)
メディア掲載レビューほか
グランドマスター・シリーズ第4期第4回発売分。ヴァイオリニスト、ナタン・ミルシテインのヴァイオリン曲集。タルティーニ「ヴァイオリン・ソナタ 悪魔のトリル」他を収録。 (C)RS