その後、自ら事務所を辞めて、元祖インディーアイドル、地下アイドルとしてその多彩な才能で
芸能界を自由に、かつ強かにサバイヴしていった宍戸留美の1stアルバムです。
80年代というアイドル黄金期がついに終止符が打たれた1990年にリリースされたこのアルバムは、
既に曲単位で10曲集めればアルバムという固定観念を打ち捨てていることが、最も重要な点でしょう。
またもう一つテクノポップ・アイドルの元祖云々というより、むしろ重要なのは、戸川純のように自らが
プロデューサー的なある意味、最初からキャラクターを自覚的に反映させた音楽ではなく、
宍戸留美本人は、ここまで実験的なアルバムにも関わらず、そこには無自覚であったということでしょう。
それはその後に声優として成功したことからも頷けるのですが、本人が個性的というよりも、
求められているキャラクターに変身できる能力に初めから秀でていたということだと思います。
なので、もしこの1stが、いわゆる80年代を引きずった正統派の制作スタッフで作られていたとしたら、
その後の宍戸留美はなかったかもしれないとも思います。
そういう観点からも、1stの時点で、アイドル史の中でも異質な作品に参加したという意味は、極めて大きいのです。
2011~2013年に、本人を主体として制作された3部作では、極めてナチュラルな大人のポップスを
聴かせてくれたのですが、あの滲み出る東京という街の空気感も、あらゆる雑多な音楽を吸収してきて、
幅広い表現力を持ち得た宍戸留美だからこそできたのだと思わされるわけです。