昨年2011年にリリースされたマーキュリー・リヴィング・プレゼンス・コレクター・エディションの50枚組の選曲からは漏れていたフレデリック・フェネル率いるイーストマン・ウィンド・アンサンブルによるマーチ集で、言ってみればセット物の補完としての価値を持っている。彼らが一世を風靡した軍楽隊用のマーチの名曲が堪能できるブラスバンドの模範的な演奏としても高く評価したい。特に吹奏楽に携わる人にとって、あるいは経験者にとって一度は耳を傾けるべき演奏だろう。こうしたマーチの簡潔で効果的な音楽性に逸早く着目し、理想的な音楽表現で多くの録音を残したフェネルの実力が充分に窺える1枚だ。1958年の古い録音だが音質は鮮やかで極めて良好。
このCDに収められた8曲のマーチは日本の中学や高校で演奏されるブラスバンドのスタンダード・ナンバーで、むしろフェネル、イーストマンの貢献で日本にもスーザを中心とするアメリカのミリタリー・バンドのレパートリーが定着したとも言えるだろう。しかし良く聴いてみると彼らの使用楽譜は日本で普及しているものと細部で微妙に異なっている。個人的にはフェネルの演奏がよりオリジナルに近いと思われるが、編曲の経緯については全く知識がないのでなんとも言えない。演奏自体はテンポひとつをとっても演奏会用に洗練されていて、質実剛健な軍楽隊のイメージではないにしても、いかにもアメリカのバンドらしい磨きぬかれたテクニックと華やかさは特筆に値する。
コレクターズ・エディションの方にはスーザの24曲のマーチを始めとする、彼らの演奏によるCDが5枚ほど組み込まれているが、何故か最もポピュラーと思われるこれらの曲が抜けていた。2004年にリリースされたフェネルの追悼盤以降、これもまた製造中止の憂き目に遭っていたものなので復活は歓迎したいが、今回のカップリングはオリジナルLPの選曲を尊重したもののようで、かつてもうひとつのマーチ集『マーチング・アロング』とリカップリングされて1枚のCDに収められていた。1枚ごとの演奏時間も30分余りなので、できれば1枚のCDにまとめてリリースして欲しかった。ちなみに今回彼らのCDはルビジウム・カッティングのリニューアルによって一挙に12枚が蘇った。