はたして、これほどまでに存在感のあるアーティストだったろうか―。
残念ながらKOTOKOに対するこれまでの評価は、今時の売れ線アニソン路線の
領域を出ないものだった。しかし本作で見事に彼女は、その"枠(エリア)"からの
脱皮を果たした... それは単にベストセラー小説の映画主題歌というタイアップの
なせる技なのだろうか。否、むしろKOTOKO自身の紡ぐあまりに的を得た歌詞が、
カリスマ性に満ちたその歌声が、映画そのもののスリリングな展開を増幅して
いるようにさえ思えてくる―それほどまでに本作はセンセーショナルに扇動する。
映画予告編であるとしても、何ら違和感のないPV映像の中で、彼女はまるで
"この世界"の秩序を手のひらの上で静かに激しく揺さぶる女王蜂のようだ。
その慈悲深く醒めた眼差しが見守る狂気―禁断とまで窺わせる聖域である
高みから、KOTOKOは美と醜悪の狭間に宿る人間の真実を響かせる。
最早、確固とした堂々たる存在感を放つその姿...
思わず彼女を輩出したI'veサウンドの本気を見た気がした。
もうアニソン歌手などという呼ばれ方は相応しくないのかと感じる一方、
だからこそのアニメゲーム畑の真の底力をさえ垣間見た瞬間でもあった。
個人的にはカップリングの「siren」も好み。こちらはKOTOKOらしい、
さりげなく感情のこもった歌い方で、やはりビートの利いたアレンジが
耳に心地よい。さらに魂に訴えかけるサビの切ない高音が"裏鬼ごっこ"
の様相を呈しており、それなりの聴き応えを地味ながら備えている。