このCD5枚組みセットのハイライトは、1975年1月15日、鹿児島文化センターのライブであろう。ベースの中村真一が在籍したオリジナル四人囃子の最後期のステージである。例えばDisc 3に収録されている73年俳優座ライブと比べてみても、遥かに完成度の高い圧倒的な演奏だ。
実は筆者は、この鹿児島のライブをこの目で見ている。前年に「一触即発」をリリースした彼らは当時高1だった筆者の憧れの的で、同級生数人と一緒に、期待に胸を膨らませて見に行った。「おまつり」から「一触即発」まで全5曲、きっちり60分のステージは最高に素晴らしかった、といいたいところだが、実際は音がデカすぎて、演奏がいいのかどうかよく分からなかった。
このCDが筆者にとって特別なのは、しかし自分が見に行った公演だからというだけではない。われわれはこのライブを録音したのだ。筆者が録音したテープは聞くに堪えない音質だったが、一緒に行った友人Fが録ったテープはわりに音が良くて、後日ダビングしてもらった。テープで聞くと予想外にいい演奏で、以後ずっと愛聴していた。
それから30年近くたち、筆者は、四人囃子の音源を集めているというマニアと知り合いになり、お互いが持っていた音源をMDでトレードした。筆者は友人Fの音源を渡し、相手からは四人囃子が広田三枝子と共演したエアチェック音源をもらった。この「From the Vaults 2」に鹿児島のライブが収録されているのを知ったとき、自分があの時渡した音源が元になっているのではないかと直感した。
果たして予感は当たった。この音源は、間違いなく友人Fが録ったものである。その証拠に、われわれの声が入っている。「おまつり」が始まる直前の「ピンポン玉の嘆き・・」は筆者の声、10秒付近の「おまつりだ、おまつりだ」は友人Mの声だ。
長く生きていると、とんでもなく面白いことが起こる。このCDのことを同級生に話したら、「それはロックの神様の贈り物だ」といった。本当にそう思う。