このVSEはVSLシリーズの廉価版総合音源という位置づけですが、アマチュアには必要十分な音色を提供してくれます。
ここで買えるのはStandardパッケージだけですが、これだけでも基本的な楽器、奏法は収録されています(ただ、ミュートトランペットなどは入っていません)。Fullにすると、オルガンやサックス、チェンバロ、ギター、小編成&大編成の弦などが追加されます。先に書いたミュートトランペットはFullにすると追加されます。残念ながら弱音器付き弦楽器はVSEシリーズには収録されていません。
また、追加音源としてVSE Plusもありますが、こちらは奏法を追加するものですので、VSEに収録されている基本的な奏法で満足できなくなったら追加するといいでしょう。ちなみにVSEとVSE Plusはバンドルされたものが売られていて、お金に余裕があってポップスなどに使うのではなく管弦楽主体の様々な奏法を駆使した曲を作りたい方はそちらのバンドルパッケージを購入された方が若干お得です。
タイトルにクラシックを指向する方にオススメと書いたのは、特に比較されがちなEW QLSOと比べておとなしく、地味な印象の音色だからです。QLSOはハリウッドサウンドを目指して作られていますので派手な印象の音色が多いのですが、このVSEは落ち着いた音ですので強奏が多く、勢いのある曲を作りたい場合はQLSOを選んだ方がいいと思います。逆にスローテンポな曲、静かな曲はこちらの方が向いているでしょう。静かな曲も勢いのある曲も両方作りたい、しかし音源を一つに絞りたい、とおっしゃる方は、QLSOを選ぶよりこちらのVSEを選ばれることをオススメします。派手ではありませんが、VSEのベロシティの大きい音はそれなりに力強さがありますので。サントラを作ることを主眼に置かなければ、こちらの方が汎用性が高いと思われます。
ちなみに公式サイトなどをご覧になれば分かることですが、VSEはVSLシリーズとは違って16bit、44.1kHzでの収録となっています。この点はQLSOですとミッドレンジグレードのQLSO金と同じようなスペックです。
他のQLSOとの大きな差は、収録時のマイクポジションでしょう。VSEは専用スタジオでドライな音をサンプリングしているのに対し、QLSO金ではホールを利用し実際のオーケストラの配置でホールの残響音を含めて収録してあります。QLSOプラチナは楽器の近接位置、指揮者の位置、客席の位置の3つのマイクポジションで収録してありますが、近接位置から収録したものでも、VSEよりはウェットな音がするようです。QLSOの方が定位を定めたり、リバーブを加えたりしなくていい分、手軽に自然な音を出せると言えるかも知れませんが、アンサンブルを狭い部屋で行っているようにしたいとか、サラウンドミックスでバンダ演奏させたいような場合には、フラグシップグレードのQLSOプラチナの近接マイクを使わないと違和感があるでしょう。それでも若干残響音が入っていることを考えると、通常のオケ配置以外で使いたい場合はVSEの方がパンやリバーブの設定をしなければならない分面倒ですが、向いていると言えるかも知れません。また、VSEの方がドライな分、他のメーカーのシンセと混ぜやすいと言うことはあるでしょう。
一応書いておきますが、QLSOのプラチナは24bit収録で、VSLシリーズと同じです。QLSOプラチナプラスは16bit、24bit両方収録されていますので、発表媒体やパソコンスペックなどで使い分けることが出来ます。
パソコンスペックについてですが、Windows XPをお使いの方は2管編成以上の管弦楽曲をこのVSEで作るのは無理だと思います。当方、XP 32bit、AMD Athlon 64 X2 2.8GHz(デュアルコア)、RAM 4GB(制約上認識は3.25GB)、ASIO対応のIEEE1394オーディオインターフェースを用いて作曲していますが、奏法追加音源のVSE Plusを用いずに16トラック(1管編成くらいです)読み込んだ時点で、OS、楽譜ソフトのSibelius 6なども合わせて2.5GBほどメモリを占有していました。少し余裕があるように見えますが、リアルタイム再生しますとブチブチノイズがのったり、音が途切れたりしました。VSEを用いてオーケストラをやるならば、64bit OSでRAM 8GB程度はあった方がいいと思います。CPU負荷はさほどでもありませんので、廉価版CPUでなければ今のプロセッサならば十分使用に耐えると思います。
ちなみに私のパソコンで普通にVSEを読み込んだら10トラックほどでDAWソフトが落ちました。Vienna社のホームページでVSL/VSEを16トラックマルチティンバーにするVienna Ensembleと言うソフトが無償ダウンロードできますので、VSEを購入したらユーザー登録すると同時にダウンロードしておくことをオススメします。もしかしたら今はパッケージに入っているのかも知れませんが。
あと注意すべきなのは、このソフトを起動するにはUSBドングルが必要な点です。Vienna Key必須と書いてありますが、Steinberg Keyなどでも代用できます。ただし、その場合問題が起きた時に保障がないようですが。Syncrosoft社製USBドングルをお持ちでないようでしたら、Vienna Keyを購入して下さい。標準価格3150円です。
ちなみにAmazonのVSEの参考価格は今年のVSL全品約10%値下げ前の価格です。ただし、そこから値引きされて40000円を切っているのは他と比べても安いと思います。
ちょっと手間のかかるソフトですが、素直なリアルさを持つ音、エンジンの安定性、管弦楽曲作曲初心者には十分な収録内容、円高による値引きが続いたことでの現在の値頃感、そして必要に応じて楽器や奏法を拡張できる点を考慮しまして、星5つを付けさせて頂きたいと思います。