殺人、いじめ、虐待。辛い人間の暗部。一部分だけを見ればその部分が強調されているかのように感じられる作品。しかし、それだけにとどまらない強く優しい包容力に満ちた力作です。
死後の世界へ旅立った人から現世に残る知人へと届く最後の手紙「死後文」の配達人フミカをめぐる騒動。ぶっきらぼうだが、どこか寂しげで、真面目で、本当は思いやりのあるフミカの周りに集まってくる奇妙な縁で結ばれた友人たち。フミカと同じ「死後文」配達人でニヒルを決めこんではいるものの実は純粋で優しいチアキ、フミカの過去を知る誠実で思慮深い少年要、要に密かに思いをよせる元気で前向きな少女夏香、マイペースで大胆な夏香の姉春乃。主人公を囲む登場人物らのフミカのことを思いやるがゆえのひたむきさと温かな存在感がこの作品に前向きな力を与えています。
辛いこと、嬉しいこと、人の心のうちの全てを「死後文」配達人として嫌というほど見てきたフミカ。彼女自身も自分が自分であるために己の過去と向き合おうとします。はたしてフミカの壮絶な過去とは?そして彼女はなぜ「死後文」配達人となったのか?そもそも「死後文」配達人とは何者なのか?そのあたりの謎解きも観る者を惹きつけること請け合い。
一話ずつなかば完結しているかのような構成ですが、実は一つ一つの話が積み重なって大きな潮流になっていくあたりが素晴らしい。どのキャラクターも実に丁寧に描かれていることが物語に厚みを加えています。
人生につきものの辛さも、勇気の源泉である温かい善意も、すべて心に染み入ってくる、これはファンタジーアニメの心に残る名作です。決して底抜けに明るくはない、しかしあえて暗部から目を逸らさず直視することによって前向きで心強い希望をしっかとテーマに据えることに成功した好例です。