バルセロナに暮らす29歳のヴァルは性的欲求を抑えられず、様々な男との逢瀬を続けていた。そんなある日、会社経営のハイメと知り合う。セックスの相性は期待したほどではなかったものの、本物の愛情を彼に感じたヴァルはやがて彼と家庭を持つことを夢見始めるが…。
ヴァレリー・タッソーのベストセラー手記『
Diario de una ninfomana
(セックス依存症女性の日記)』を、映画『
ハモン・ハモン
』の脚本家クーカ・カナルスが脚色したスペイン映画です。ヴァルが働く会社の「社長が年末にハムを贈るよ」と繰り返し言うのは、『ハモン、ハモン』への遠回しの言及でしょうか。
いずれにしろ『ハモン、ハモン』流にセックスが人間の根源の何かを動かし、それによって満たされることもあれば、大きく足もとをすくわれてしまうことがある、その喜びと哀しみを描いた映画といえるでしょう。
映画の冒頭、ヴァルが綴る日記の中に幾度もvivir(生きる)という言葉が繰り返し出てきている様子が映ります。そのことの実存的な意味を、もがき、あがきながら見いだそうとしたヴァルが、たどり着いた手技がセックスであったことに共感と反感のないまぜとなった感情を覚えるのも事実です。見る者がどちらを選びとるかでこの映画の評価は分かれるでしょう。
私は、ドメスティック・バイオレンスというスペインで頻発する社会問題をからめつつ、娼婦にまで身を落としたことによってヴァルが得たものが何なのかを描く作品として、一定の評価をするものです。
なお、スペインの映画人を人生のパートナーとし、長年スペイン映画(『カラスの飼育』(1976年)や『トーク・トゥ・ハー』(2002年))に出演してきたジェラルディン・チャップリンがヴァルのフランス人の祖母役で出演しています。その祖母とヴァルの会話部分だけはフランス語ですが、残りの8割はスペイン語で演じられます。