批判はあることだろう。
曰く「原作の持つダーティ・ヒーロー「ルパン」のイメージを損なっている」と。
曰く「これは宮崎監督によるルパンで、他のルパンとは別物だ」と。
曰く「銭形の例の名ゼリフは彼の言えるものではない」と。
だが、それでも日本アニメ映画史に燦然と輝く傑作であり、宮崎監督の作品として観ても「ラピュタ」と双璧と間違いなく断言できる。
伝説のニセ札「ゴート札」の謎を解くべく欧州の小国「カリオストロ公国」へと潜入したルパンは道中で出会った、大公の息女・クラリスから財宝の在り処を解く「鍵」ともいうべき指輪を託される。
クラリスが、摂政・カリオストロ伯爵との意に沿わない結婚を強いられようとしていることを知ったルパンが繰り広げる「お姫様救出劇」。
冒頭でいきなり主題歌「炎のたからもの」を流す演出に注目したい。普通ならラストのみであろうに。
決して派手な歌ではないが、どこか哀愁を感じさせるメロディーが違和感無く観衆を劇中へと誘うのだ。
導入部はクラリスと出会う際のカーチェイス。ルパンの愛車がテレビアニメ版とは異なる。
壁を「勢いを付けて駆け上る」・・・なんて有り得ない演出で笑わせてくれる半面、ジェットコースター的な展開のスピードに聴衆は釘付けとなる。しかし、健闘空しくお姫様は敵の手に落ちてしまう。
出会った娘が大公の息女と知ったルパンは伯爵の城の中へと潜入を試みる。
このお話の「もう1人の主人公とも言うべき銭形警部」とも出会い、共通の目的のために共闘することに。
通常では有り得ない「追う者」と「追われる者」とのコンビネーションの強さに、観客は興奮を禁じ得ないことであろう。
ニセ札「ゴート札」の心臓部も確認してクラリスを一気にかっさらう・・・・・を試みるも、ルパンが銃弾を受けて失敗。銭形もゴート札の証拠を提示してインターポールを動かそうとするも、政治的判断から弱腰の各国首脳に失望して酒に溺れ、クラリスと伯爵の婚儀は迫る。
ルパンが婚儀に乱入することを不二子の機転で知った銭形は「ルパン逮捕」の名目で、現場に乱入してゴート札の壊滅を狙う。当日のテレビキャスターに扮した不二子の前で繰り広げる銭形の「猿芝居」が必見である。
式直前のクラリスをどうにか連れ去ることに成功したルパンと、それを追う伯爵との対決はその舞台を「時計塔」へと移す。伯爵との一騎討ちは卑怯な伯爵に追い詰められるも、クラリスの機転でまたも危機を脱する。
欲に溺れる伯爵は指輪を台座に嵌め込んで、とうとう財宝への道を開くも時計の針に挟まれて自滅する。
落下した湖から上がったルパンとクラリスが目にしたのは・・・湖の底に眠っていた古代ローマ時代の遺跡。正に人類の遺産とも言うべきものにルパンはつぶやく「オレのポケットに(入れるのに)は大きすぎらあ」と。
出会いがあればまた別れがある。お姫様を救出したルパンはまた次なる冒険の旅へと出向かなければならない。クラリスは言う。「自分も連れて行って欲しい」と。「泥棒を覚えてみせる」と。
愛しさの余り彼女を連れて行きたいという誘惑に駆られるルパンは堪える。
彼女は「陽の当たる場所で生きるべき」なのだと。「決して自分のように闇の世界に足を踏み入れてはならない」のだと。走り去るルパン。そしてタッチの差で遅れて到着する銭形。
最後の最後で待っていました。彼の「最大の魅せ場」が!。
クラリスの「ルパンは何も盗んではいない」という問いに銭形は「ヤツはトンデモナイものを盗んでいった」と告げる。そして「それは・・・・・・・です!」と。
これは銭形のキャラから考えれば言えるセリフでは確かに無いと思う。けれどこのセリフで彼が大きく「男を上げた」のもまた事実。普段はルパンにやられっ放しの彼も今回は大活躍で、ホンの少しの「カッコよさのお裾分け」である。
庭師の男が最後にルパンたちを評して言うセリフがこの映画の全てを物語っている。これが観衆たちの胸に観覧後に流れる共通の思いだろう。この心地よさに浸れる幸福は極上のものだ。
曰く「なんと、気持ちの良い連中だろう‥‥」。つまりはそういう連中によるお話なのである。