特別指名手配犯全員の逮捕があってから、自分自身にとっての麻原彰晃とオウム真理教を総括しなおそうと思っていたので、この本は買わなければならない本だと感じていた。今のところ(2012年8月現在)オウム事件関係では最新の出版物だからだ。
送られてきた本を見ての第一印象はチープだということ。一瞬別の本の付録かと思ったくらいだ。薄い上に新しい情報が少ない。指名手配犯が連続で捕まったために、興味がオウム事件に戻ってきたから、今なら売れるだろうと号外的に出したという感じがする。
しかしそれも仕方ないことなのかもしれない。僕はいま40代だが、生まれたころに連合赤軍による浅間山荘事件があった。いまの二十歳くらいの人たちにとってのオウム事件は、僕らにとっての浅間山荘事件に例えることができる。もうそんなに年月がたってしまったのだ。僕には、まだあの事件から時間が進んでいないような感じがしてならないのだが。
内容は麻原の過去、指名手配犯の17年の軌跡、事件概要、実行犯達の素顔、麻原と女たち、オウムの後継組織についてなど。真新しいことはほとんどない。
表紙を見ればわかるように、オウムウォッチャーとして知られているジャーナリストや研究者の寄稿があるが、事件から17年ともなると全体の総括としての色合いが強い。これは最近ではオウム関連の書籍が出版されることは少ないので、今後の教訓としても貴重だといえるだろう。
個人的に印象的だったのは、村井幹部を刺殺した徐裕行・元服役囚のインタビューで、意外と純粋な人物だったのだということ。義憤に駆られたのだという。僕自身あの事件の日、輸血のために富士から東京に駆けつけたが間に合わず、病院の前で途方にくれた思い出がある。これは何かの陰謀だと思っていた。この事件のために明らかにならなかったこともあって残念でもある。しかしオウムを離れ過去を省みる今となっては、この人の気持ちは理解できる。
いつもレビューの序盤に書いていることだが、僕は元はオウムの出家者だ。いままで読んできた書籍から、いかに自分を含めた麻原の弟子達がお人よしで騙されやすかったか、またオウムという組織が麻原の遊び場に過ぎなかったということ、いろいろなことを考えた。
オウムのような組織は今後、簡単には現れまいとは思う。麻原が描いた仏教に似せたファンタジーを背景とした社会でありながら、その内幕で行われていたことは麻原による信徒からカネをむしりとるような指示であり、出世競争でありと一般社会の価値観そのものだった。この事実はオウム真理教自体が、いま僕達がすむ社会を箱庭に転写したような存在であることを示していて、光の当て方しだいで一般社会でも同じようなことが起きうるということも表している。
たとえば、麻原が仮谷さん拉致監禁致死事件で強制捜査が行われることを知り、自己の権力の延命のために起こしたのが地下鉄サリン事件だったことは、支配者が自分の権力の失墜を恐れて、なりふり構わぬ蛮行にでるのを連想させる。アラブの春から始まったリビアや、現在でも続いているシリアのように。オウムが国家内国家のような存在であったために、攻撃の方向が権力側に向いていたという違いはあるが、日本人でも同じようなことで紛争が起きうるのだとしっかりと覚えておくべきだ。またこのことから、麻原がオウム真理教においていかに絶対的な存在であったかがわかる。
もう一度、手にとって見ていると、「彼らの暴走は本当に終わったのか」という副題に、この本自体がその体裁で解答を出しているということに気づく。この薄さといい、安っぽい表紙・紙質といい、すでに世間はオウムの亡霊など恐れてはいないのだとはっきりと述べているようだ。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
週刊朝日増刊 「オウム全記録」彼らの暴走は本当に終わったのか 2012年 7/15号 [雑誌] 雑誌 – 2012/7/5
彼らの暴走は本当に終わったのか
ほか
ほか
登録情報
- ASIN : B008G2VN4Q
- 出版社 : 朝日新聞出版; 不定版 (2012/7/5)
- 発売日 : 2012/7/5
- 言語 : 日本語
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,185位人文・社会・政治の雑誌
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中3つ
5つのうち3つ
2グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。