先月発売(2013/7/24)された「
聚楽
」がめちゃくちゃ良くて、昨年2枚同時リリースされた
アルバム「
First Class
」と、この「うるとら」どちらから聴こうかなと迷いましたが、
「First Class」はとても落ち着いた作品のようなので、最後に取っておいて、
まずはブラジリアンミュージックに取り組んだという本作を選びました。
ブラジルの凄腕スタジオミュージシャンとほぼブラジル録音の音源で構成されているこのアルバムに対して、
もしかしたら、よくある近年の上質なジャズボサボーカルアルバムだったら嫌だなあという不安を少し持っていたのですが、
聴いてみると、そんなことは私の全くの杞憂であったことが分かりました。
というのは、どうも近年日本人がプロデュースで関わったブラジル系の音楽は、どうも上質という部分にこだわり過ぎて
ダイナミズムに欠けるというか、単純に面白いと思うものに出会う確率が低かったからなのです。
確かに本作も演奏は上質であります。しかしながら、このアルバムはそれでいてドキドキする楽しさに満ち満ちています。
というのは、上質な演奏の上に、大野方栄さんの書いた自作の日本語歌詞によるボーカルが乗った途端、
完全に独自の解釈のブラジル音楽へと見事に変換させているからなのです。
結構メロディを知っている曲もたくさんあって、最初聴いた時は、日本語歌詞を乗せていることに「ギョッギョッ!!」という
驚きというか戸惑いがあったのですが、もう2回目聴いたときには、なぜかそれが元からそうだったかのように、
とてもスムーズにしかもスリリングに耳に入ってくるから不思議です。
特にエルメート・パスコアル作でセルメンもやったM3「pipoca」やジョアン・ドナートのM11「A Ra」など、
本来スキャットであった曲に、オリジナルの日本語詞を乗せている曲などは、本当に凄いです。
例えば、M3「pipoca」には、本作では邦題「水の惑星」となっているのですが、サビの部分に、
「進化してる気分で、退化してくのかしら? 退化してる気分で、進化してくのかしら?」という歌詞をつけています。
この曲の何とも言えない壮大さを表現する上で、この歌詞はオリジナルよりも、さらにググッと惹きつけられるものがありました。
そのようなギュッと心を掴まれるような歌詞が、大野さんの変幻自在なテクニックで縦横無尽に歌われるわけですから、
最初に危惧した最近のジャズボサボーカルものは、凡庸なものが多いというイメージとは、完全に一線を画しています。
私は愛国者ではありませんし、むしろどちらかというと国なんか愛さなくてもいいと思っている人間なのですが、
今回だけは日本人で良かったと思いました。そう。単にこのアルバムの日本語が直に頭に入ってきてよかったというわけです。
それくらい歌詞に魅力が満載です。日本人だからこそ大野さんのアルバムに、
いち早く(まあそれでもだいぶ時間かかってますが)出会えて本当に良かったです。
これは予感ですが、未来にまた「ブリザ・ブラジレイラ」のようなアルバムガイド本が出版されるとしたら、
必ず掲載されてくる作品だと思います。なのでこのレビュー読んでくれた人には「いつ買うの?今でしょ」と言いたくなりますね。