CD全体を通して、歌詞からは「皆が忘れているものとは何か」を強く訴えかけてくるアルバムであると思います。
・歌詞
『Utopia』を聴くと、自然災害、空襲、徐々に落ちぶれていく人生などの、忘れていたふりをして目を背け続けた現実が、曲中の言葉を借りれば『透明な遺跡』がありありと突きつけられます。これらの解決するには多大な労力や時間が要る問題に、それでもなんとか呑み込まれぬよう他人に助けを求めたりしながらも抗い続ける様子は一見醜くも、実は最高に真っ当で、素晴らしく美しい物だと思うはずです。この一見矛盾した所にある苦悩の狭間に『Utopia』が垣間見えてきます。
・曲調
大高丈宙(おおたかともおき)さんはリンちゃんの歌声の調節が非常に上手で、痛烈な歌詞と相まって感情の波をストレートにぶつけてきます。また、曲は変則的で、所々にノイジーな場所があります。が、僕が勝手にそれ以外に表現が見つからないので「ノイジー」という表現を使っただけで、実際は全然ノイズではなく、逆に聴いていてとても心地よく、変則的な動きを楽しめます。また、全体的にポップな曲なので、「曲の楽しさで心がウキウキするほど楽しいけど歌詞で心がやられる」ということが何度か起こります。ここにも『Utopia』らしさがあると思います。是非イヤホンまたはヘッドホンで聴いてみてほしい一枚です。
ここまで歌詞が重いと書いてきたのですが、実際は重たいのは数曲で、中にはノリで作ってあって面白い曲もあり、また難解でそう簡単にはよく分からない曲、ちょっと変わった子の恋心だったりと様々なパターンがあるので解釈しながら聞いたり、笑いながら聞けるので、聴いたことが無い人でも是非気軽に購入してみてください。また、先程も書いた「ポップなノイジーさ」に思考を奪われて深い歌詞に気が回らなくなってしまいがちなのですが、だからこそ歌詞の内容を深く考えさせられるように感じます。
「やっぱよくわかんないや」という人はヒッキーPさん(大高丈宙さんの別名義)がアルバム内の曲『最初から斜陽』と『センセーショナルの翌年』がニコニコにアップされているので聴いてみて下さい。二曲とも非常にパワーのある曲です。さらに『Utopia』のクロスフェードデモ動画もあるのでそこで全体を視聴できます。本当に一度調べてみることをお勧めします。
あと、ここで書くのもアレなのですが、とらのあなで『Utopia』を買うとヒッキーPさんの既発表曲を再編集したものを人気順に五曲収録したベストCDがついてきます。やはりこれも素晴らしかったです。
余談ですが、個人的には一曲目の「空襲の音」が一番お気に入りです。