『007/ゴールデンアイ』(GoldenEye)('95')
出演∶ピアース・ブロスナン、イザベラ・スコルプコ、ショーン・ビーン、ファムケ・ヤンセン、ゴットフリード・ジョン、アラン・カミング、ジュディ・デンチ、サマンサ・ボンド、デスモンド・リュウェリン、ロビー・コルトレーン、ジョー・ドン・ベイカー、チェッキー・カリョ、マイケル・キッチン、セレナ・ゴードン、サイモン・クンツ、パヴェル・ダグラス、オリビエ・ラジュー、コンスタンティン・グレゴリー、ビリー・J・ミッチェル、ウラジミール・ミラノヴィッチ
監督∶マーティン・キャンベル
いや、あの映画の宣伝コピーは「お父さん、怖いよ。何か来るよ」だったかな…『野性の証明』(主演:高倉健·薬師丸ひろ子)。あ、いきなり変な話でスミマセン。この007シリーズ第17作の大きな見せ場の一つに、戦車vs.クルマの異種格闘…じゃない異種カーチェイスがあったので、日本映画には珍しいド派手な"戦車アクション"がある『野性の証明』を思い出したんです。("何か来る"というのは戦車(自衛隊)なんですけどね)
話を戻してこの作品、5代目ジェームズ・ボンドのピアース・ブロスナンが登場する第1作目だ。タフな二枚目で男の色気を発散させていたショーン・コネリー、飄々とした2.5枚目風のロジャー・ムーア、端正な貴公子然としたティモシー・ダルトンら"前任者"と比べると、フツーにカッコいい二枚目スターという感じかな。
1960年代に始まったこのシリーズ、当初から敵だったソ連の社会主義体制が崩壊してから初めての作品だ。ソ連時代から(いや、それ以前の帝政ロシア時代から?)ロシアが抱えるコサック集団との対立関係に根ざす問題を背景に、じつはコサックの血を引く人物が今回の敵のラスボスという設定だ。はっきり言って、日本人にはわかりにくい背景だ。変化する世界情勢のお陰で、スパイものの背景はややこしいですね(笑)
[物語] 崩壊前のソ連。秘密の化学兵器工場を爆破するために潜入した英国情報部員007/ジェームズ・ボンド(ブロスナン)と006/アレック・トレベリアン(ビーン)は、ウルモフ大佐(ジョン)率いる警備兵に見つかり、アレックは射殺される。銃撃戦の末、ボンドは施設を爆破し、辛くも脱出する。
それから9年。ソ連崩壊後のロシアで勃興した犯罪組織「ヤヌス」のメンバーで元·ソ連空軍の戦闘機パイロット、ゼニア・オナトップ(ヤンセン)を追って、ボンドはモナコにいた。だが、ボンドのマークをくぐり抜けたゼニアは、表向きロシア軍の今や将軍で裏ではヤヌスの幹部になっていたウルモフと共に、NATOが開発し対電磁波装甲を持つ最新鋭戦闘ヘリ・タイガーを強奪して逃亡。
ヘリでロシア国内の秘密宇宙基地に飛んだゼニアら。そこには旧ソ連時代に極秘裏に作られた衛星兵器ゴールデンアイのコントロール・システムがあった。宇宙空間で爆発させた小型核爆弾で超強力電磁波を発生させて地上の標的を破壊するのだ。ヤヌスのメンバーの天才プログラマー、ボリス(カミング)の手引きで査察を装って基地内に入ったゼニアとウルモフは、ボリス以外を皆殺しにし、2台あるゴールデンアイの一つを作動させて基地を破壊して証拠隠滅すると、対電磁波装甲ヘリで脱出する。
だが、基地のプログラマーの一人のナターリア・シモノワ(スコルプコ)が生き残って逃走する。偵察衛星からの映像で、生存者の存在を確認したボンドは、ロシアへと飛ぶ。サンクトペテルブルクに着いたボンドは、CIAのエージェント、ジャック・ウェイド(ジョー・ドン・ベイカー)と接触。生存者ナターリアの行方を探し、ヤヌスの陰謀と目的を探らねばならない。もう1台のゴールデンアイでヤヌスは何をしようとしているのか……!?
これまでの007シリーズでは、敵は主にソ連か秘密組織スペクター(首領:ブロフェルド)のどっちかであることが多かったので、コサック出身のボスと旧ソ連軍のゼニアとウルモフら幹部がいる犯罪組織ヤヌスというのは、長年のファンにはピンとこないだろう。でも、娯楽映画を楽しむのに複雑な国際情勢はあまり考える必要はないですね。(日本とアメリカが戦争してたことを知らない若者や、ロシアが社会主義国じゃないことを把握してない老人も実際いるみたいだし……(笑))
アクション映画としては、なかなかの物です。初期作品と違って、CGや特撮を使った部分が増えているのは、個人的には好きじゃないが、前述の戦車アクションはスゴい。邪魔な障害物は体当たりでブッ壊し、敵のクルマを次々と踏みつぶして街中で暴れまくる痛快アクションだ。情報部員のボンドが、どこで戦車の操縦を覚えたか…とか、深く考えるのはやめましょう。
今回、メインのボンドガールは、ポーランド出身女優のイザベラ・スコルプコ(ナターリア役)だが、敵方の凶暴な女性幹部ゼニアを演じたオランダ女優ファムケ・ヤンセンの方が目立っていて強烈な印象を残します。ボンド=ロジャー・ムーア時代の『美しき獲物たち』で、ボンドガールのタニア・ロバーツよりも、敵方の女殺し屋役のグレース・ジョーンズの方がカッコよくて目立っていたのを思い出します。
このシリーズには、ボンドの親友のCIA局員フェリックス・ライターが準レギュラーで出ていた。(なぜか演じる人は毎回別の俳優に替わっていたが…) 前々作でライターが片脚を失ったせいだろうか、本作と次作ではCIA局員の役はジョー・ドン・ベイカー 演じるウェイドという映画オリジナルのキャラになっている。ライターはのちに『カジノ・ロワイヤル』で"復活"するが、それまで白人だったのに、なぜか黒人俳優のジェフリー・ライトに替わってます(笑)
そう言えば、ボンドの上司の情報部長Mも『ゴールデン・アイ』以降、(情報部の"人事異動"で?)女優のジュディ・デンチに変わっている(第23作『スカイフォール』まで)。60年以上に渡る長寿シリーズなので、変わる世相に合わせて、人種やジェンダーの多様性を取り入れてきたんですね。