作者の「〜者」シリーズの最新刊かと思って購入したら、「仮面劇〜マスク」という作品の書き直し(焼き直し?)だった。
作者のほとんどの長編は読んでいるので、「しまった!」と思ったが、案外忘れているもので、それなりに面白く読ませてもらった。
計二度の「叙述トリック」があって、1回目の叙述トリックは、「うまくひっかけられた!」と思わされるが、2回目の叙述トリックは、もう少しそれらしい伏線を張っておかないと、「やられた!」というカタルシスを得る所まで行かない。
例えば、主人公の女性が、病身を押して車で信州へ向かうシーンでは、「車が揺れるたびに、バックミラーを注視した」、などという文を付け加えるとか。
また、峠でスコップで穴を掘るシーンでは、『女にとって過酷な労働のあと、流れる汗をぬぐいながら、いつまでも崖の上へ立ち尽くした』とあるが、これを、『女にとって、穴掘りをしたりなどの過酷な労働をしたあと〜』というふうに、少しヒントをちりばめておくと、ラストのどんでん返しの衝撃が、一層効果的なものになったと思う。
主人公の女性が階段を登りながら、『足が鉛のように重く、肩がちぎれるように痛かった』などというようなヒントはあるのだけれども。
それにしても実際問題として、病身の女性が、アレを担いで車に乗せたり、階段を登り降りできるのかな、と思ったり、夫が何も告げずに、愛人の所へ行ってしまった理由が説明されていなかったり、そのマンションのドアが無施錠だったりとか、また、夫の家族が、「なぜアレを疑って上京したのか」、その理由が何も説明されていないなど、ちょっと腑に落ちないところが散見される。せっかく筆を入れるのだから、そういうところを納得いく形にしてほしかったと思う。
作者自身のあとがきで、「デビュー当初は、密室トリックや叙述トリックを使った、マニア臭の強いミステリーを、長く続けていく自信がなくて、実際に起こった事件をヒントにした作品を書くようになった」とあるが、初期の作品の「螺旋館の殺人」「倒錯の死角」などの作品では、脳みそをグデングデンにかき回されたような衝撃を受けて、2度3度と読み返したものだ。
叙述トリックを駆使して、あの頃の勢いで書いてもらって、「本当の新作長編」をぜひ読んでみたいと思う。

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毒殺者 (文春文庫 お 26-15) 文庫 – 2014/11/7
折原 一
(著)
大人気ミステリー「――者」シリーズの原点
多額の保険金をかけた妻を、トリカブトで殺したM。絶対にばれるはずはなかったのに、ある日、脅迫者からの電話がかかってきた。
多額の保険金をかけた妻を、トリカブトで殺したM。絶対にばれるはずはなかったのに、ある日、脅迫者からの電話がかかってきた。
- 本の長さ386ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2014/11/7
- ISBN-104167902230
- ISBN-13978-4167902230
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2014/11/7)
- 発売日 : 2014/11/7
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 386ページ
- ISBN-10 : 4167902230
- ISBN-13 : 978-4167902230
- Amazon 売れ筋ランキング: - 539,355位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 6,451位文春文庫
- カスタマーレビュー:
著者について
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埼玉県出身。早稲田大学文学部卒業後、JTBに入社、雑誌『旅』などの編集に携わる。
88年、『五つの棺』(のち『七つの棺』として文庫化/創元推理文庫)でデビュー。88年、『倒錯のロンド』(講談社文庫)で江戸川乱歩賞候補、95年、『沈黙の教室』(ハヤカワ文庫)で日本推理作家協会賞(長編部門)受賞。主な作品に、『倒錯の死角』『倒錯の帰結』『異人たちの館』(講談社文庫)、『冤罪者』『失踪者』『天井男の奇想』(文春文庫)、『逃亡者』『追悼者』(文藝春秋)、『暗闇の教室』(ハヤカワ文庫)など。
謎の画家、石田黙の作品を収集。05年、石田黙作品集にして美術ミステリである『黙の部屋』(文藝春秋/現在文春文庫)を発表。
07年6月、石田黙のコレクション展(石田黙展)を文藝春秋画廊・地下室で開く。
11年5月、メメント・モリ(折原一骸骨絵コレクション展)を同画廊で開く。
18年10月、ヴァニラ画廊にて、メメント・モリ展&石田黙展を開く。
現在、日本推理作家協会会員。
著者ホームページ 「沈黙の部屋」http://orihara1.la.coocan.jp/
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年12月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
良く練られた内容だというのが第一印象。
ただ余りにも現実離れしたトリックだとも感じたので星は3つにしました。
ただ余りにも現実離れしたトリックだとも感じたので星は3つにしました。
2023年1月26日に日本でレビュー済み
時間をへだてた、M氏による妻の複数のトリカブト殺人事件が主たるテーマの推理小説。 Mを頭文字にもつ登場人物が三人以上いて、その誰が犯人なのかが謎になる構成である。スリリングでサスペンス横溢した作品だが、作中病人がするあることがその人に可能とは思いにくい点がマイナスである。解決部はややとってつけた感がある。記述トリックをやりすぎたかもしれない。
2015年1月16日に日本でレビュー済み
旧作「仮面劇」を改題改訂した作品。作者や出版社の事情でこうした改題作が出版されてしまうのは、読者にとって非常に不親切だと思うのだが、作品の出来自身は良い。表面上は世間を騒がせた保険金目当ての妻殺し疑惑「M事件」をモチーフにしているのだが、実は、本作の根源はNHKが放映した海外ドラマにある。
私も"たまたま"そのドラマを観ていたのだが、東野氏と折原氏も観ていたらしい。東野氏はそれに触発されて「仮面山荘殺人」を執筆した。これは元のドラマをほぼストレートに小説化したもので、そのドラマを観ていた私は冒頭でカラクリに気付いてしまった。東野氏に先を越された折原氏は口惜しがった由だが、その代替と言うべきか、本作にはそのアイデアが巧みに織り込まれており感心した。流石に叙述トリックの名手というべきか、大きくて錯綜した枠組みの中でそのアイデアが最後の決め手として使われているため、そのアイデアが使われている事自身に全く気付かなかったという鮮やかさである。
この他、妻が夫の過去に疑念を抱く件で、ウィリアム・カッツ「恐怖の誕生パーティー」(傑作)にさりげなく言及する等、遊び心と叙述トリックの名手としての矜持に溢れた作品。作者としても油の乗り切った時期の作品で、ワザワザ「**者」シリーズ(出来の良い作品が殆どない)の一作にする必要はなかったと思う。叙述トリックの名手としての作者の手腕を味わいたい方には好適の秀作だと思う。
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