『ヒトラーの娘たち――ホロコーストに加担したドイツ女性』(ウェンディ・ロワー著、武井彩佳監訳、石川ミカ訳、明石書店)は、多くのドイツ女性たちがホロコーストの一端を担うに至った背景に粘り強く肉薄している。「私はアメリカとドイツの文書館に戻り、それらを手掛かりに東部に派遣されたドイツ人女性、特に、ホロコーストを目撃し、実行した女性たちに関する文書を、さらに系統立てて探すことに取り掛かった。ファイルが増えていき、物語が姿を現し始めた」。
「『ヒトラーの娘たち』は、血塗られた地(ブラッドランド)で熱意あふれる事務職員であり、略奪者であり、拷問者であり、殺人者であった。・・・その多くはポーランド、ウクライナ、ベラルーシ、バルト諸国やロシアへ、息子や交際相手、夫とともに赴いた母であり、恋人であり、妻である。しかし、最悪の殺人者はこの集団の中にいた」。
看護師のパウリーネ・クナイスラーの例を見てみよう。「クナイスラーはグラーフェネックやハダマール、そしてドイツにおけるその他の『安楽死』の現場で5年間にわたりほぼ毎日、ガス殺の遂行を手伝い、患者を餓死させ、精神病や身体疾患のある患者に致死注射を施し、殺人を業務として行う者となった」。
殺人者は看護師だけではなかった。「看護師以外でヒトラーのジェノサイド戦争の日常業務に最も貢献したのは、東部にあった国や民間の事業体で働いていたドイツ人秘書と文書係や電話交換手などの事務補助員であった」。
「大半は好奇心からだが、これに物欲も加わり、多くのドイツ人女性が東部に何千とあったゲットー(ユダヤ人が強制的に住まわされた居住地区)でホロコーストに直面することとなった」。ドイツ人は公式にはゲットー立ち入りを禁じられていたにも拘わらず、ドイツ人の観光の対象となっていたのである。「そして、この新たな娯楽には明らかに女性的な特徴が見受けられた。買い物ツアーと恋人とのデートだ」。差別の象徴であるゲットーを観光気分で訪れるとは!
ユダヤ人の大量殺人現場は、ドイツ人たちの行楽地でもあったという不条理。「(ウクライナの)町と町の間に広がる砂地や荒れ地では、殺された者たちの所持品と死体を見ることがあった。大量殺人の現場は、人里離れた地にあったわけではない。それは、しばしば、町と町を結ぶ近道や小道にまで入り込んでいた。・・・そこは好奇心を掻き立てられる場であり、略奪の場であった。ジェノサイドの現場はピクニックを楽しむ草地、狩猟に興じる森、避暑と日光浴のために向かう水辺といった、まさにドイツ人男女が気晴らしに訪れる場所でもあったのだ」。
「人間としてのあらゆる価値や尊厳を奪われ、ユダヤ人は奴隷となり、ドイツ人監督官の慰み者とされたのである。ユダヤ人の殺害は、リダではウサギ狩りのような娯楽の一つとなった。・・・戦後、(秘書のリーゼロッテ・)マイアーは毎日曜日こうした狩猟に同僚たちと出かけていたことを認めた。ユダヤ人は初心者向けの標的となり、経験が浅く、大抵は酔っぱらっていた射撃手にも即座に満足のいく結果をもたらした。疲労困憊し、栄養失調に陥っていたユダヤ人労働者たちは雪の中をのろのろと動いた。白一色の冬景色に彼らの黒い影が浮き上がった。運よく数人がドイツ人の銃弾を避け、森に逃げ込み、木々に紛れた」。リダの森で散弾銃を手にリンゴの木の下で笑っているドイツ女性の写真が残されている。
ドイツ女性たちは、なぜ共犯者への道を歩んだのだろうか。「好奇心、残虐性を好む傾向、あるいは別の動機から犯罪現場へと向かったドイツ人女性も多い。彼女たちは、共犯者として独自の残忍な行動をとる一方で、殺害へと仲間の男性を煽り立てた。そしてゲットーや駅で、ユダヤ人を追いやり、ユダヤ人の所持品を押収し消費した。また、ユダヤ人が家から追い出され、大きく掘られた穴や絶滅収容所でまさに死のうとしているそのときに、パーティーを開いていた。フルビェシュフのゲットー一掃の様子を撮影した写真では、見物するドイツ人たちが笑っている。ユダヤ人がソビブルへ向かう列車へと行進させられているとき、監督役の親衛隊員の妻たちはコーヒーとケーキを味わっていた」。
23歳の企業秘書、ヨハンナ・アルトファーターの悪辣な所行には激しい憤りが込み上げてくる。「1942年9月16日、アルトファーターはゲットーに入り、2人のユダヤ人の子どもに近づいた。ゲットーを囲む壁の近くに住む、6歳の子どもとよちよち歩きの幼児だ。彼女はおやつを与えるかのようなしぐさをして、2人を手招きした。よちよち歩きの子どもがやって来る。すると彼女は子どもを両腕で抱え上げ、抱きしめた。あまりの力に子どもは叫んで身をよじった。アルトファーターは子どもの両脚をつかみ、さかさまに吊るして、ゲットーの壁にその頭を叩きつけた。まるで小さな絨毯の埃を叩き出すかのように。そして息絶えた子どもを父親の足元に放り投げた」。
親衛隊将校の妻、23歳のエルナ・ペトリは幼い息子と娘を持つ母親であった。「遠くに何かが見えた。馬車が近づくと、それが道端を這う、ぼろの服しか身にまとっていない子どもたちだとわかった。『ザシュクフ駅の貨物列車から逃げ出してきた子どもたちだ』と、気がついた。・・・子どもたちはおびえて、お腹を空かせていた。ペトリは彼らを呼び寄せて家に連れて帰った。落ち着かせ、台所から食べ物を持ってきて信用させた。・・・彼女は自分で6人の子どもを射殺しようと決心した。拳銃を手に、ほかのユダヤ人たちが撃たれ埋められた森の中の同じ穴に連れて行った。・・・エルナ・ペトリは子どもたちに、彼女に背を向けて溝の前に一列に並ぶよう命じた。最初の子どもの首から10センチメートルの所に銃を構え、引き金を引いた。移動して、2番目の子どもにも同じようにした。最初の2人を撃ち終えると、『残りの子どもたちは最初は驚いていましたが。そのうち泣き出しました。大声を出すのではなく、すすり泣くのです』。エルナは、決して『心を乱され』まいとした。そして撃った。『全員が溝に横たわるまで、誰も逃げようとしませんでした。もう何日も移送されてきたので、憔悴しきっているように見えました』」。彼女に殺されたのは、6歳から12歳の子どもたちだった。
収容所長の妻、リーゼル・ヴィルハウスは、ユダヤ人たちに命じて、私邸の2階に家族が午後の軽食を楽しめるバルコニーを造らせた。「大勢のユダヤ人奴隷に、庭仕事など自宅でしなければならないありとあらゆる用事を言いつけ、バルコニーからその行動を監視した。この見晴らしの良い場所を、囚人たちを『気晴らしに』射殺するために利用したと、あるユダヤ人目撃者は語っている。・・・サディスティックな見世物の方が彼らの得意とするところで、人前での殴打、絞首刑、性器の切断がなされ、子どもの手足はもぎ取られた」。
ドイツ女性たちはごく日常的な欲望を満たそうとしたのである。「ナチ時代、ユダヤ人の生死を左右したのは、上司のご機嫌を取りたい、同僚や配偶者と張り合いたい、仕事を続けたい、快適な大邸宅や『新しい』服が欲しいといったドイツ人女性の欲望や物的必要性、そして仕事上の野心であった」。
殺人者たちのいずれもが若かったことに驚かされる。「『ヒトラーの娘たち』の背景は男性と同様、労働者階級と富裕層、高学歴と低学歴、カトリック教徒とプロテスタント、都市出身者と地方出身者などさまざまである。彼女たちは皆、野心と愛国心を持っていた。また、程度の違いはあったが、皆欲深く、反ユダヤ主義的、人種主義的であり、帝国主義的な傲慢さを備えていた。そして誰もが若かった」。
収容所の女性看守がホロコーストの一端を担ったことは知っていたが、こんなにさまざまな場面で、これほど多くの女性たちが加担していたとは、何ということだろう。人間というものは、性別を問わず、環境が用意されると、臆面もなくどす黒い面を露出させてしまう醜悪かつ危険な存在であることを、本書は示している。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥2,000以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
新品:
¥3,520¥3,520 税込
ポイント: 212pt
(6%)
無料お届け日:
3月31日 日曜日
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
新品:
¥3,520¥3,520 税込
ポイント: 212pt
(6%)
無料お届け日:
3月31日 日曜日
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
中古品: ¥2,300
中古品:
¥2,300

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
ヒトラーの娘たち――ホロコーストに加担したドイツ女性 単行本 – 2016/7/27
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥3,520","priceAmount":3520.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"3,520","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"X5giYq%2FIqlqdoTgNhVPtdhBZGykMDCby5WEsJ2XbUvUJHO7%2B6wEZLKhF4W36fMVkrakZ351f0vqPKDYEtlXPym2wyuswKmg0mJzkyRgyIs%2FlgI8fVA9ACOBrtyJTV8RrSnrop4ftWUE%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥2,300","priceAmount":2300.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"2,300","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"X5giYq%2FIqlqdoTgNhVPtdhBZGykMDCbyW0ojjexZl1M%2BmpRRHNwfW7UxSQWOLkopm76SyXvgeXV8cas30PcZeWEe3BLzAouoVBfCO6WrOeYjlMv3dq80uJMtPLNw%2FJxq%2FjyIcvUPxYE%2FzYhKXeEw7jB4VM7uBzPxBk8qrnMqqgFspKoBPdkjHg%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
ナチズムが生んだ一般のドイツ女性たちは
`血塗られた地'(ブラッドランド)で何を目撃し、何を行ったのか。
レイシズム、国家主義のさいはてに待つ、知られざる歴史の闇に迫る。
ナチス・ドイツ占領下の東欧に赴いた一般女性たちは、ホロコーストに直面したとき何を目撃し、何を為したのか。冷戦後に明らかになった膨大な資料や丹念な聞き取り調査から、個々の一般ドイツ女性をヒトラーが台頭していったドイツ社会史のなかで捉え直し、歴史の闇に新たな光を当てる。
想像せよ、自分が立っている場所はすでに「灰色」ではないか。
自戒せよ、大きな流れの中で自分を押しとどめるだけの確たる信念はあるか。(「監訳者解題」より)
ティモシー・スナイダー(『ブラッドランド』『ブラックアース』)
`本書は、女性学とホロコースト研究の双方における重要な転機として読まれ、記憶されるだろう'
全米図書賞ノンフィクション部門最終候補選出作(2013年)
【書評等情報】
共同通信配信・各紙/池田香代子氏(2016年9月~)
日経新聞/川成洋氏(2016年9月18日)
女性情報(2016年10月号)
しんぶん赤旗/熊野直樹氏(2016年11月20日)
図書新聞 第3282号/増田幸弘氏(2016年12月10日)
ふぇみん 3141号(2016年12月15日号)
週刊読書人 3170号《2016年回顧総特集・女性学》/千田有紀氏(2016年12月23日号)
朝日新聞「2016年の収穫 心に残る本―書評委員が選んだ今年の「3点」」/市田隆氏(2016年12月25日)
女たちの21世紀 No.88 フェミの本棚/上田尚徳氏(2016年12月号)
ジェンダー史学 13号/小野寺拓也氏(2017年)
[著者]
ウェンディ・ロワー(Wendy Lower)
クレアモント・マッケナ・カレッジ歴史学部教授(John K. Roth Chair)、ミュンヘン大学リサーチ・アソシエイト。アメリカ合衆国ホロコースト記念博物館の学術コンサルタントも務め、20年にわたりホロコーストに関する資料調査とフィールド調査を行っている。家族とともに米国・カリフォルニアのロサンゼルスとドイツのミュンヘンに居住。
[監訳者]
武井彩佳(たけい・あやか)
早稲田大学博士(文学)。専門はドイツ現代史、ユダヤ史、ホロコースト研究。早稲田大学比較法研究所助手を経て、現在、学習院女子大学国際文化交流学部准教授。著書に『戦後ドイツのユダヤ人』(白水社、2005年)、『ユダヤ人財産はだれのものか―ホロコーストからパレスチナ問題へ』(白水社、2008年)、『〈和解〉のリアルポリティクス―ドイツ人とユダヤ人』(みすず書房、2017年)、訳本にダン・ストーン著『ホロコースト・スタディーズ―最新研究への手引き』(白水社、2012年)がある。
[訳者]
石川ミカ(いしかわ・みか)
国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。外資系銀行勤務を経て、障害・福祉・リハビリテーション分野の翻訳に従事。
`血塗られた地'(ブラッドランド)で何を目撃し、何を行ったのか。
レイシズム、国家主義のさいはてに待つ、知られざる歴史の闇に迫る。
ナチス・ドイツ占領下の東欧に赴いた一般女性たちは、ホロコーストに直面したとき何を目撃し、何を為したのか。冷戦後に明らかになった膨大な資料や丹念な聞き取り調査から、個々の一般ドイツ女性をヒトラーが台頭していったドイツ社会史のなかで捉え直し、歴史の闇に新たな光を当てる。
想像せよ、自分が立っている場所はすでに「灰色」ではないか。
自戒せよ、大きな流れの中で自分を押しとどめるだけの確たる信念はあるか。(「監訳者解題」より)
ティモシー・スナイダー(『ブラッドランド』『ブラックアース』)
`本書は、女性学とホロコースト研究の双方における重要な転機として読まれ、記憶されるだろう'
全米図書賞ノンフィクション部門最終候補選出作(2013年)
【書評等情報】
共同通信配信・各紙/池田香代子氏(2016年9月~)
日経新聞/川成洋氏(2016年9月18日)
女性情報(2016年10月号)
しんぶん赤旗/熊野直樹氏(2016年11月20日)
図書新聞 第3282号/増田幸弘氏(2016年12月10日)
ふぇみん 3141号(2016年12月15日号)
週刊読書人 3170号《2016年回顧総特集・女性学》/千田有紀氏(2016年12月23日号)
朝日新聞「2016年の収穫 心に残る本―書評委員が選んだ今年の「3点」」/市田隆氏(2016年12月25日)
女たちの21世紀 No.88 フェミの本棚/上田尚徳氏(2016年12月号)
ジェンダー史学 13号/小野寺拓也氏(2017年)
[著者]
ウェンディ・ロワー(Wendy Lower)
クレアモント・マッケナ・カレッジ歴史学部教授(John K. Roth Chair)、ミュンヘン大学リサーチ・アソシエイト。アメリカ合衆国ホロコースト記念博物館の学術コンサルタントも務め、20年にわたりホロコーストに関する資料調査とフィールド調査を行っている。家族とともに米国・カリフォルニアのロサンゼルスとドイツのミュンヘンに居住。
[監訳者]
武井彩佳(たけい・あやか)
早稲田大学博士(文学)。専門はドイツ現代史、ユダヤ史、ホロコースト研究。早稲田大学比較法研究所助手を経て、現在、学習院女子大学国際文化交流学部准教授。著書に『戦後ドイツのユダヤ人』(白水社、2005年)、『ユダヤ人財産はだれのものか―ホロコーストからパレスチナ問題へ』(白水社、2008年)、『〈和解〉のリアルポリティクス―ドイツ人とユダヤ人』(みすず書房、2017年)、訳本にダン・ストーン著『ホロコースト・スタディーズ―最新研究への手引き』(白水社、2012年)がある。
[訳者]
石川ミカ(いしかわ・みか)
国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。外資系銀行勤務を経て、障害・福祉・リハビリテーション分野の翻訳に従事。
- 本の長さ328ページ
- 言語日本語
- 出版社明石書店
- 発売日2016/7/27
- 寸法13.6 x 2.7 x 19 cm
- ISBN-104750343749
- ISBN-13978-4750343747
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者について
[著者]
ウェンディ・ロワー(Wendy Lower)
クレアモント・マッケナ・カレッジ歴史学部教授(John K. Roth Chair)、ミュンヘン大学リサーチ・アソシエイト。アメリカ合衆国ホロコースト記念博物館の学術コンサルタントも務め、20年にわたりホロコーストに関する資料調査とフィールド調査を行っている。家族とともに米国・カリフォルニアのロサンゼルスとドイツのミュンヘンに居住。
[監訳者]
武井彩佳(たけい・あやか)
早稲田大学博士(文学)。専門はドイツ現代史、ユダヤ史、ホロコースト研究。早稲田大学比較法研究所助手を経て、現在、学習院女子大学国際文化交流学部准教授。著書に『戦後ドイツのユダヤ人』(白水社、2005年)、『ユダヤ人財産はだれのものか―ホロコーストからパレスチナ問題へ』(白水社、2008年)、訳本にダン・ストーン著『ホロコースト・スタディーズ―最新研究への手引き』(白水社、2012年)がある。
[訳者]
石川ミカ(いしかわ・みか)
国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。外資系銀行勤務を経て、障害・福祉・リハビリテーション分野の翻訳に従事。主な訳書は、O・ヘンリー著『賢者の贈りもの』〈マルチメディアDAISY図書〉(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会、2007年)、カイリー・チャン著『玄天 第一巻 白虎』(バベルプレス、2012年)、アラナ・オフィサー、アレクサンドラ・ポサラック編『世界障害報告書』(明石書店、2013年)、スーザン・ヤング、ジェシカ・ブランハム著『大人のADHDのアセスメントと治療プログラム―当事者の生活に即した心理教育的アプローチ』(明石書店、2015年)など。
ウェンディ・ロワー(Wendy Lower)
クレアモント・マッケナ・カレッジ歴史学部教授(John K. Roth Chair)、ミュンヘン大学リサーチ・アソシエイト。アメリカ合衆国ホロコースト記念博物館の学術コンサルタントも務め、20年にわたりホロコーストに関する資料調査とフィールド調査を行っている。家族とともに米国・カリフォルニアのロサンゼルスとドイツのミュンヘンに居住。
[監訳者]
武井彩佳(たけい・あやか)
早稲田大学博士(文学)。専門はドイツ現代史、ユダヤ史、ホロコースト研究。早稲田大学比較法研究所助手を経て、現在、学習院女子大学国際文化交流学部准教授。著書に『戦後ドイツのユダヤ人』(白水社、2005年)、『ユダヤ人財産はだれのものか―ホロコーストからパレスチナ問題へ』(白水社、2008年)、訳本にダン・ストーン著『ホロコースト・スタディーズ―最新研究への手引き』(白水社、2012年)がある。
[訳者]
石川ミカ(いしかわ・みか)
国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。外資系銀行勤務を経て、障害・福祉・リハビリテーション分野の翻訳に従事。主な訳書は、O・ヘンリー著『賢者の贈りもの』〈マルチメディアDAISY図書〉(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会、2007年)、カイリー・チャン著『玄天 第一巻 白虎』(バベルプレス、2012年)、アラナ・オフィサー、アレクサンドラ・ポサラック編『世界障害報告書』(明石書店、2013年)、スーザン・ヤング、ジェシカ・ブランハム著『大人のADHDのアセスメントと治療プログラム―当事者の生活に即した心理教育的アプローチ』(明石書店、2015年)など。
登録情報
- 出版社 : 明石書店 (2016/7/27)
- 発売日 : 2016/7/27
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 328ページ
- ISBN-10 : 4750343749
- ISBN-13 : 978-4750343747
- 寸法 : 13.6 x 2.7 x 19 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 414,213位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,509位ヨーロッパ史
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2016年10月4日に日本でレビュー済み
2023年6月25日に日本でレビュー済み
ナチズムにおけるジェンダーというテーマを追求したいという意図はわかるが、個人史の発掘成果を並べただけのものという印象を受ける。ホロコーストを生み出したのは、西洋文明であり、キリスト教であるという視点を筆者は、考えたことがないのだろうか。
翻訳も、疑問に感じる点がある。それにしても、社会主義国家の東ドイツでも、「斬首刑」(p242他)はないでしょう。
翻訳も、疑問に感じる点がある。それにしても、社会主義国家の東ドイツでも、「斬首刑」(p242他)はないでしょう。
2016年11月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
当時の圧倒的な国民の支持を受けたいたナチスには、当然の事ながら、女性の熱烈な支持者や活動家も沢山いた訳で、彼女達は、どんな人達で、何をしていて、その後、どうなったか?と言う点にハイライトを当てている労作です!
これを読むとフツーの人達がナチスと一体になって人種戦争を虐殺を容易に、積極的に、使命感を持って遂行出来ることがよ~く分かって震撼とさせられます。しかし、書物とすると、もっとシンプルに要点を絞って、より低コストで提供できるのでは?と感じます。
これを読むとフツーの人達がナチスと一体になって人種戦争を虐殺を容易に、積極的に、使命感を持って遂行出来ることがよ~く分かって震撼とさせられます。しかし、書物とすると、もっとシンプルに要点を絞って、より低コストで提供できるのでは?と感じます。
2016年9月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
まだ、全部読み通しておりませんが・ティモシー・スナイダー氏の讃辞を更に期待して読み進みます。
2016年10月28日に日本でレビュー済み
『ヒトラーの娘たち』というタイトルから、「ん?ヒトラーに子供いたっけ?幼子と一家心中したのはゲッベルスだったよな?」と思いましたが、当然ながら本書はそういう内容ではなく、副題のとおり『ホロコーストに加担したドイツ女性 』を取り上げたものです。
登場するのも、直接的に人を殺したり暴力を振るった女性看守というより、ナチスという官僚機構を支えた事務員(秘書)であったり、優生思想を広めた医療関係者(看護師)であったり、ナチズムを教えた教育関係者(教師)であったり、また当時のエリートであった親衛隊員の妻であったりと、ある意味どこの社会にもいるありふれた人たちです。そういった人たちが、苦しい田舎の生活から抜け出すため、個人的な出世のため、家族(夫)のため、また当時の狂気に逆らえず自らが「反逆者」「非国民」と烙印を押されるのを恐れて、もちろん本人の性格の問題もあるでしょうが、そういった要因が重なりあって、最終的にホロコーストというおぞましい大量殺人に加担していくことになったさまを、淡々とクールに記述していきます。
個々人のエピソードは本文を読んでいただくとして、ちょっとネタばらしをすると、最終章はこんなふうに締めくくられています。
「・・・結局彼女たちはどうなったのか。ほとんどの殺人者が罪に問われることなく逃げ切ったというのがその答えである。」
あと、武井彩佳さんの「監訳者解題」もなかなか考えさせられるものでした。このような出来事を、ナチスドイツのことだから、戦前のこどだから、いまの私たち日本人には関係ないと片付けてしまっていいのか。そういった「狂気に至る過程」は今なお(いや、ヒトラー以前からも)この人類社会に滔々と流れている。そう問うているように感じました。
監訳者さんは具体例を挙げているわけではありませんが、例えば日本でも、大東亜戦争のような戦争行為、オウム真理教によるテロ行為、「ブラック企業」による労働者酷使、そして直近では「電通」社員の過重労働による自殺など、登場人物を「ヒトラー」から「天皇陛下」なり「教祖様」なり「会社」「社長」「上司」に変えるだけで、なんだか同じような悲惨なストーリー繰り返されているように思います。やはり歴史は繰り返すのでしょうか。決して他人事には思えませんでした。
でも、自分がそういう「狂気の沙汰」に放り込まれた時に、身を挺して喰い止める勇気があるかと問われれば、否と言わざるを得ません。せいぜい、積極的には加担せず活動から距離を置く、もしくは逃げ出して外から情報を発信するぐらいしかできないでしょう。そう考えると、決して「ヒトラーの娘たち」を一方的に非難することもできないなと、またまた考えさせされてしまいました。そうやって読者に自覚させ内省を促すことこそ、著者のしたかったことだと思います。
登場するのも、直接的に人を殺したり暴力を振るった女性看守というより、ナチスという官僚機構を支えた事務員(秘書)であったり、優生思想を広めた医療関係者(看護師)であったり、ナチズムを教えた教育関係者(教師)であったり、また当時のエリートであった親衛隊員の妻であったりと、ある意味どこの社会にもいるありふれた人たちです。そういった人たちが、苦しい田舎の生活から抜け出すため、個人的な出世のため、家族(夫)のため、また当時の狂気に逆らえず自らが「反逆者」「非国民」と烙印を押されるのを恐れて、もちろん本人の性格の問題もあるでしょうが、そういった要因が重なりあって、最終的にホロコーストというおぞましい大量殺人に加担していくことになったさまを、淡々とクールに記述していきます。
個々人のエピソードは本文を読んでいただくとして、ちょっとネタばらしをすると、最終章はこんなふうに締めくくられています。
「・・・結局彼女たちはどうなったのか。ほとんどの殺人者が罪に問われることなく逃げ切ったというのがその答えである。」
あと、武井彩佳さんの「監訳者解題」もなかなか考えさせられるものでした。このような出来事を、ナチスドイツのことだから、戦前のこどだから、いまの私たち日本人には関係ないと片付けてしまっていいのか。そういった「狂気に至る過程」は今なお(いや、ヒトラー以前からも)この人類社会に滔々と流れている。そう問うているように感じました。
監訳者さんは具体例を挙げているわけではありませんが、例えば日本でも、大東亜戦争のような戦争行為、オウム真理教によるテロ行為、「ブラック企業」による労働者酷使、そして直近では「電通」社員の過重労働による自殺など、登場人物を「ヒトラー」から「天皇陛下」なり「教祖様」なり「会社」「社長」「上司」に変えるだけで、なんだか同じような悲惨なストーリー繰り返されているように思います。やはり歴史は繰り返すのでしょうか。決して他人事には思えませんでした。
でも、自分がそういう「狂気の沙汰」に放り込まれた時に、身を挺して喰い止める勇気があるかと問われれば、否と言わざるを得ません。せいぜい、積極的には加担せず活動から距離を置く、もしくは逃げ出して外から情報を発信するぐらいしかできないでしょう。そう考えると、決して「ヒトラーの娘たち」を一方的に非難することもできないなと、またまた考えさせされてしまいました。そうやって読者に自覚させ内省を促すことこそ、著者のしたかったことだと思います。
2016年9月26日に日本でレビュー済み
書くまでもないことかもしれないが、書名にある“娘”は比喩。本書は、第二次世界大戦下にナチスが行ったホロコーストに様々な形の“加害者”としてかかわった若き女性たちについて書かれている。
軍隊にしても、当時のドイツの官僚にしても男中心で、女性が活躍する場はほぼなかったため、ホロコーストの加害者として名前が出てくるのは、ほぼ男性。しかし、著者がウクライナのジトームィルに保管された戦後の捜査記録には、多くの女性たちが証言者として登場している。調査を進めていくと、少なくない女性が、親衛隊の妻として銃で撃ったり、看護師として薬剤を投与した直接の加害者として、ホロコーストをスムーズに進めることを補助した秘書やタイピストなどの共犯者として、ユダヤ人の殺害に関わっている。さらに一定の事実を推測していながらも傍観者であった女性の多くも、証言においては「冷淡かつ傲慢」であったとしている。
様々な証言を引き出し、残された回想録・手紙を丹念に読み解きながら、若い女性たちがどのように体制に組み込まれていったのかを明らかにしている。“加担”の背景の一つには、“一人前の人間として扱われたい”“社会の中に自分の居場所を見つけたい”といった、当時の女性たちが置かれた社会的地位の低さがある。しかし、一方でユダヤ人たちの財産に対する強い欲求、国家における教育も含め当時のドイツを覆う風潮でもあった強い反ユダヤ主義が根底にあったことも、浮かび上がってくる。そして、著者は、ウクライナなどドイツの“東方”にいた女性は50万人を超えており、かなりの女性がユダヤ人殺害に関して、本来であれば“有罪”であったことを示唆している。
ナチスの“狂気”が男性だけに宿ったという考え方も間違いなのだ。あの“狂気”は、女性を含め誰にでも宿る可能性があることを本書は示している。
自分がナチのような残虐行為に加担することはない、と言うのは簡単だ。しかし、社会にある様々な邪悪さを知りながら、放置すること、見過ごすこと、沈黙することは、ユダヤ人が酷い目にあっているのに見ない振りをしたことと、どれほどの差があるのだろうか。武井彩佳氏が巻末の「監訳者改題」で、かつてのドイツの轍を踏まないために「歴史的な想像力」の必要性を訴えている部分も強く胸に響く。
軍隊にしても、当時のドイツの官僚にしても男中心で、女性が活躍する場はほぼなかったため、ホロコーストの加害者として名前が出てくるのは、ほぼ男性。しかし、著者がウクライナのジトームィルに保管された戦後の捜査記録には、多くの女性たちが証言者として登場している。調査を進めていくと、少なくない女性が、親衛隊の妻として銃で撃ったり、看護師として薬剤を投与した直接の加害者として、ホロコーストをスムーズに進めることを補助した秘書やタイピストなどの共犯者として、ユダヤ人の殺害に関わっている。さらに一定の事実を推測していながらも傍観者であった女性の多くも、証言においては「冷淡かつ傲慢」であったとしている。
様々な証言を引き出し、残された回想録・手紙を丹念に読み解きながら、若い女性たちがどのように体制に組み込まれていったのかを明らかにしている。“加担”の背景の一つには、“一人前の人間として扱われたい”“社会の中に自分の居場所を見つけたい”といった、当時の女性たちが置かれた社会的地位の低さがある。しかし、一方でユダヤ人たちの財産に対する強い欲求、国家における教育も含め当時のドイツを覆う風潮でもあった強い反ユダヤ主義が根底にあったことも、浮かび上がってくる。そして、著者は、ウクライナなどドイツの“東方”にいた女性は50万人を超えており、かなりの女性がユダヤ人殺害に関して、本来であれば“有罪”であったことを示唆している。
ナチスの“狂気”が男性だけに宿ったという考え方も間違いなのだ。あの“狂気”は、女性を含め誰にでも宿る可能性があることを本書は示している。
自分がナチのような残虐行為に加担することはない、と言うのは簡単だ。しかし、社会にある様々な邪悪さを知りながら、放置すること、見過ごすこと、沈黙することは、ユダヤ人が酷い目にあっているのに見ない振りをしたことと、どれほどの差があるのだろうか。武井彩佳氏が巻末の「監訳者改題」で、かつてのドイツの轍を踏まないために「歴史的な想像力」の必要性を訴えている部分も強く胸に響く。