Schubertは、31年の短い生涯で多くのピアノ・ソナタを遺した。完成させた作品は11曲しかないらしいが、それでも少なくない数である。
最初のD.566は、1817年6月に書かれたとされている。完成された作品には分類されていないが、3つの楽章が残っており、最終の第4楽章もD.506のホ長調ロンドが想定されていたのではないかとされている。但しCDの解説書によれば、多くの場合演奏されるのは、最初の2楽章、ホ短調のModerato、ホ長調のAllegrettoだけだそうである。
次のD.784は1823年2月に作曲されたとされているが、出版されたのは死後11年経った1839年だそうである。3楽章制で、イ短調Allegro giusto(正確に速く、というところか)、ヘ長調Andante、イ短調Allegro vivaceで構成されている。第1楽章のテーマは独特で、一度聴いたら忘れられない。何か、不気味な物語が語られるのではないか、と言う雰囲気である。
最後のD.850は1825年8月に書かれたとされ、4楽章制であり、演奏に35分程度かかる長大な曲である。第2楽章がイ長調で書かれているが、他の3つの楽章はすべてニ長調で作曲されている。やはりこの作品が、このCDに収録されている三つの中では一頭地を抜けているだろう。主題の歌わせ方、Schubertらしい微妙な転調がこの作品ではあちこちに見られる。こういう音楽を聴くと、彼にはもっと長く生きて多くの作品を残してほしかった、と感じる。
Schiffは1953年12月生まれなので、この1992年11月の録音時には38歳であり、技巧的には恐らく最高の時期ではないだろうか。いつものことながら特に響きが美しいと言う訳ではないのだが、Schiffの考えはよく練り上げられていて、その考えが浸透した演奏ではないだろうか。