1999年から折にふれ愛聴している録音です。
・曲間にゲルトラウト・イェッセラーという女性の朗読が入りますが、これが実に素晴らしい。曲間すべてというわけではなく、
どうしても地の文が要るような場面で、抑えた低いトーンの語りです。まれに「」で簡潔に役者が台詞を入れたりもします。
音楽の進行を妨げることなく、曲への集中力を高める、出処進退とトーンを心得た、最高の意味でプロの仕事と感じました。
・グルベローヴァの「夜の女王」は、高音に余裕があり、危なげがないにも関わらず、この役に必要なわくわくさせるスリリングさ
を感じさせてくれます。怪物であり、女である。そういう「女王」の艶っぽさ。
・アーノンクールの表現はどこか不安定で、今澄んでいたかと思えばもう濁っている、そんな様々な音をぶつけてくるものです。
思えば「魔笛」という作品は、いわば肩のこらない劇場で初演された雑味たっぷりのエンターテイメントだったはず。過度に「晩年」
にこだわった教会音楽のようにやるより、私には目から鱗が落ちる思いがしました。そしてその雑味の中からでもどうしても響いてくる
清澄さ、これこそ「魔笛」の凄さではないでしょうか。
・民謡のパロディ、教会音楽のパロディ、シリアスなオペラ・アリアのパロディ、人生はパロディの寄木細工だとでもいうような音楽。
それが「昔話」のパロディというべきナレーションでつなげられていく面白さ。
・ライナーのアーノンクールのコメント、「魔笛」という一見矛盾に満ちた物語への独創的な見解は必読ですので、独語ナレーション
を追うためにも是非国内盤日本語解説・歌詞対訳付きのディスクをお求めになって下さい。
・2枚組ですが第2幕の最初の3曲がディスク1に入っているのが無念です。DISC2が80分近くになってしまうのを避けたかったのでしょうが
・・・ただ退屈しない演奏なので時間さえゆるせば一気に聴けます。
・個人的にはこの「魔笛」を越える面白さは、知る限りクレンペラー盤だけです。
・ちなみに「パパパの二重唱」、その幕切れで金管までがパパパと鳴る、なぜかそこで涙腺がいつも決壊。変かもしれませんが