前作「Anison Acoustics」が「みんな潤子界に引きずり込め!!」だったのに対して、今回は「岩男潤子の10の顔」。ファンイベントで川村Pが「これが売れなかったらみんなでレストランでも……」とかおっしゃっていたのは、「岩男潤子の声は全部並べた!! これで売れなきゃ売るものはもうない!! 買え!! さあ買え!!」ということだと思います。だからこのアルバムは「岩男潤子 A to Z」でもあるんです。
切なさを強調した「君の知らない物語」。原曲よりまっすぐ上を向いた「悲しみよこんにちは」。キラッキラッキャピキャピの「星間飛行」。伝家の宝刀ウィスパリングヴォイスを振りかけしっとり仕上げた「Adesso e Fortuna」。女神のイメージなのか特に柔らかく歌い上げる「魂のルフラン」。細く端正な「愛・おぼえていますか」はミンメイより未沙を思い起こさせます。「secret base‾君がくれたもの‾」は呼び掛けるように少し芝居がかった歌い方。女海賊のマントをはためかせる風の音が聞こえてきそうな、静かだが軽やかな「ウィーアー!」。
そして「VOICES」は何と言ったらいいんでしょうね。フルートのように透明度MAXな声と、息の音がデュエットしています。ブレス音はささやき声と並ぶ岩男潤子の必殺技。終わりにかけてが聞きどころ。
最後に控えるのが「プラチナ」。これがねえ。表現のしようもないほどナチュラルなんですよ。演じているのに本人……みたいな。誰でも「ほんとうの自分」通りになんか生きられないけど、心の奥に誰かがいて、良きにつけ悪しきにつけ自分らしい行動を迫ったりそそのかしたりしますよね。きっと潤子さんの奥にいる、何があっても結局退かない潤子さんを支えてきた「原・潤子さん」がこれを歌っているんです。いろいろな顔を演じた後、ずっと変わらない少女のままの潤子さんがカーテンコールに出てくるような歌です。